同じ症状 母に思い託すしか カネミ油症次世代の今・3 長崎県内は30年以上認定なし

 カネミ油症患者から生まれた子や孫の大半は、患者として公的に「認定」されていない。認定患者の長女で、諫早市に暮らす下田恵(29)もその一人。認定の可否を決める年1度の油症検診を既に10回は受けたが、その都度却下されてきた。「私の体に起こっている症状は母と同じなのに…」。もどかしさを抱えつつ、認定されるためには受診を続けるほかない。

さまざまな症状があるが油症認定されていない下田恵さん=2月、諫早市内

 油症の主因ダイオキシン類のPCDFなどは、母体から胎盤や母乳を通じ子に移行するとされる。だが化学物質の血中濃度に主眼を置く診断基準が次世代救済の壁となっている。
 油症の発生から約20年後に生まれた恵は、幼い頃から吹き出物や頭痛、腹痛、鼻血、倦怠(けんたい)感など、母と同様の症状に苦しんできた。しかし検診では血中濃度が基準に達していない。「今の基準は『1世』を基に決まったもの。それを私たちに当てはめるのはおかしい」。恵は、基準値の改定や油症患者から生まれたという事実による認定を求めている。
 県生活衛生課によると、「次世代患者」の明確な定義はないが、原因となるカネミ倉庫(北九州市)製の食用油が市場に出回ったとされる1968(昭和43)年2月以降に認定患者の母親から生まれた人で、検診を受けて県の認定を受けたのは33人(死亡者、転出者など含む)。県全体の認定患者は964人(3月末時点)で、そのわずか3・4%にすぎない。
 33人は68年2月~75年12月生まれで、41歳以下の認定患者はゼロ。恵を含め、近年も10人程度の次世代患者が検診を受けているが、同課によると85年2月を最後に30年以上、次世代で新たに認定された人はいないという。
 「認定されないと、前に進めない」。恵は現状に、居心地の悪さも感じている。本当は2世患者としての思いや要望を国や加害企業にぶつけたいが、未認定なのに交渉の場に参加してもいいものか悩む。今は、カネミ倉庫などとの協議に臨む母に自らの思いを託すしかない。
 結婚適齢期や出産時期を迎えているケースも多い油症2、3世にとって、油症は非常にデリケートな問題だ。差別や偏見を恐れた親が子に伝えていなかったり、自身で被害を隠したりするケースは少なくない。恵はこうした2、3世の悩みを吸い上げて救済につなげるため、次世代当事者だけで話せる交流の場をつくりたいと考えている。
 自らの症状と向き合いながら日々介護福祉士として働く恵。急に体調が悪化して仕事ができなくなったり、医療費を払えなくなったりする最悪の事態をふと想像するという。「50年たっても次世代の不安は解消されていない」。恵はこう続けた。「あと50年は待てない」

=文中敬称略=

© 株式会社長崎新聞社