【京都嵐山】モフモフ感がたまらない、祇王寺の苔ワールドにようこそ

京都でも屈指の観光エリア、嵐山。

嵐山駅や天龍寺周辺の中心部は、いつも大勢の観光客でごった返していますが、その北に位置する「奥嵯峨野」と呼ばれるエリアは、訪れる人もぐっと少なく、のどかな田舎の空気が流れています。

そんなエリアにひっそりとたたずむのが、平家物語ゆかりの祇王寺。一面を苔に覆われた庭園は、京都でも屈指の奥深い苔ワールドが広がっています。

平家物語ゆかりの寺、祇王寺

奥嵯峨野にたたずむ「祇王寺(ぎおうじ)」は、平家物語に登場する悲劇のヒロイン祇王ゆかりの小さな草庵。

一時は平清盛の寵愛を受けた祇王でしたが、平清盛の心変わりにより、追われるように都を去り、出家します。その祇王が母と妹とともに余生を過ごしたといわれる尼寺こそ、この祇王寺。

祇王寺の墓地にある碑に刻まれた「性如禅尼承安二年壬辰八月十五日寂」は、祇王のことだと考えられており、仏間には祇王と母、妹の像が安置されています。

祇王にまつわる悲恋のエピソードは、有名な「祇園精舎の鐘の声」の一節で始まる平家物語の第一巻「祇王」にも記されています。

祇王寺の波乱万丈の歴史

もともと祇王寺は、法然上人の門弟・良鎮が創建した「往生院(おうじょういん)」という寺の境内にありました。

かつてはこのあたり一帯に広い寺域を占めていましたが、しだいに荒廃して、小さな尼寺としてのみ存続し、のちに「祇王寺」と呼ばれるようになりました。

明治元年、廃仏毀釈により祇王寺は廃寺に。境内にあった祇王たちの木像は大覚寺に保管されます。

その後、祇王寺の悲恋のエピソードに心を動かされた京都府知事と大覚寺によって、祇王寺の再建が実現。現在の祇王寺は、真言宗大覚寺派の寺院として、大日如来を祀っています。

祇王寺の境内にたたずむかやぶき屋根の草庵は、元京都府知事の北垣国道氏によって寄贈されたもの。この建物と緑豊かな庭園が、祇王寺ならではの味わい深い風景を造りあげています。

一面に広がる苔ワールド

平家物語ゆかりの寺としてだけでなく、苔の名所としても知られる祇王寺。京都には苔寺(西芳寺)をはじめ、いくつもの苔スポットがありますが、祇王寺の苔は京都でもトップクラスの美しさと人気を誇ります。

「人気」といっても、観光客が比較的少ない奥嵯峨野ゆえ、あくまでも「知る人ぞ知る」という位置づけ。だからこそ、思う存分苔ワールドが堪能できます。

こぢんまりとした境内ながら、20~30種類もの苔が豊かに育った祇王寺の庭園は、まさに苔の楽園。

木々のあいだから差し込む光が、苔の表面に表情豊かな陰影を生み出し、日常とは切り離された幻想世界を演出します。その独特の雰囲気は、どこかジブリの世界観に通じるものがあるかもしれません。

庭全体を引いてみるもよし、特定の苔や石、花などにフォーカスしてみるもよし。さまざまな距離と角度から、情緒たっぷりの苔ワールドを味わいましょう。

モフモフ感がたまらない苔のじゅうたん

祇王寺の苔の庭について特筆すべきが、その類まれなるモフモフ感。柔らかいものが好きな人なら、きっと触りたくなる衝動を抑えるのに苦労することでしょう。

こんもりとした小さな苔の山々。これらは、人口的に造られたものではなく、自然にできたものだといいます。

毛足の長い見た目が特徴的な苔は、ヒノキゴケ。しっぽのような見た目から、「イタチのシッポゴケ」とも呼ばれます。この種類の苔は、きれいな水と空気がある場所でしか生育できないのだとか。

普段なかなか気に留める機会のない苔ですが、祇王寺の庭には見慣れない苔がたくさんあって、苔の世界の奥深さに感心してしまいます。

苔の芸術は日々の手入れのたまもの

山際に位置し、湿気がたまりやすい場所にある祇王寺は、もともと苔の生育には適していますが、これほど見事な苔の庭を維持するためには丹念な手入れが不可欠。

毎日早朝に2時間もかけて、夏であれば夕方も、優しく少しずつ水をまいています。小さな庭にもかかわらず、落ち葉などの掃除も含めると、丸一日庭の手入れにかかりきりになってしまうこともあるそう。

どこを切り取っても絵になる祇王寺の庭は、世話をする人の愛情のたまものなのです。

祇王寺の苔が最も美しく見えるのが、緑が鮮やかな新緑の時期。それに加えて、黄色やオレンジの落ち葉が緑の苔の上に落ちる紅葉の時期も格別です。

四季折々の自然の美しさに会いに、知る人ぞ知る苔の名所・祇王寺に出かけてみてはいかがでしょうか。

[All Photos by Haruna]

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