佐々淳行さん語録「私を通りすぎた…」 追悼特集

2000年、インタビューに答える佐々淳行さん(左)、1972年2月、連合赤軍「あさま山荘」事件、現場で撃たれてたんかで運ばれる警察官(右)

 佐々淳行さんが10月10日亡くなった。87歳。危機管理・治安をテーマに、指揮官や指導者の「あるべき姿」を語ってきた。警察官僚出身ながら、ノンフィクション作家のような臨場感あふれる文章、小気味いい語り口の人物評伝で読者をひきつけた。「連合赤軍『あさま山荘』事件」「東大落城」「わが上司 後藤田正晴」「わが『軍師』論」「私を通りすぎた政治家たち」などの作品がすぐに頭に浮かぶ。晩年になっても「私を通りすぎたマドンナたち」(2015年)、「私を通りすぎたスパイたち」(2016年)と書き続け、その執筆意欲には頭が下がる。識者談話の取材に気さくに応じ、分かりやすい言葉でコメントしていただいたことには感謝したい。佐々さん「語録」をまとめた。(共同通信=柴田友明)

東映提供  「突入せよ!『あさま山荘』事件」の一場面(「突入せよ!」の役所広司さん・中央)

 「連合赤軍『あさま山荘』事件」(1996年、文芸春秋)

 「私にとっても殉職者2名を出してしまったという悔いは、生涯担わなければならない指揮官の十字架である」「平成の人々は今一度いまはあまり評価されない男たちの勇気と犠牲的精神の尊さを見直すべき時がきているのではないだろうか」

 当時の後藤田正晴警察庁長官に命じられ、現場指揮の幕僚となった時の佐々さんの体験記。1972年のあさま山荘事件を描いた作品は映画「突入せよ!『あさま山荘』事件」にもなった。96年に本が出されたとき、筆者は警視庁担当記者だった。本にも登場する現場の中堅隊員たちは当時署長クラスになっていた。佐々さんの作品を話題にしても、武勇談としてではなく淡々と事実関係を語る人が多かった。立場が違えば、物の見方も違う。時代の語り部として注目され始めた佐々さんの言動に、必ずしも共感していない方々もいた。

学生紛争への対応で東大安田講堂の周囲に出動した警視庁機動隊員=1969年1月

 「東大落城 安田講堂攻防七十二時間」(1993年、文芸春秋)

 「たしかに全共闘世代は四半世紀以前、自分自身以上の価値、利害打算を超えた大きな目標のため行動したかも知れない。ただ基本路線において誤っていたという総括を逃げていることから、かつて己を賭けて行動した政治改革の理想のたいまつを若い世代に手渡すことに失敗したのではないだろうか」「私は、警備側の『語り部(かたりべ)』として、原体験に基づく『事実』と第1次情報源から得た『情報』を綴り、歴史の空白の頁を埋めることを試みた。『東大安田講堂事件とは、一体何だったのか?』この問いに対する答えは、読者のご判断におまかせしたい」

都知事選の当選を決めて選挙事務所に到着し、支持者の祝福に笑顔で応える石原慎太郎氏=2007年4月8日

 軍師・佐々淳行「反省しろよ慎太郎 だけどやっぱり慎太郎」(2007年、文芸春秋)

 「いざというときの危機管理の指揮官である1200万人都民の命を守る都知事が誰になるかは、極めて重大な岐路だった」「『だけどやっぱり慎太郎』、反省し、再起動した石原慎太郎以外に都知事なしと判断した判断した筆者は、ステッキをついて選挙戦を戦った。そして、筆者は勝った」

 佐々さんの盟友である石原慎太郎さんの都知事3選出馬を巡る本として面白い。石原さんはその後、2011年3月に4選出馬を表明する。当時、都庁キャップとして筆者は取材していた。3選で選対本部長だった佐々さんも選挙カーでマイクを握った。足が弱っていた佐々さんを石原さんが気遣っている姿が印象的だった。

インタビューに答える後藤田正晴氏=1996年8月

 後藤田正晴と十二人の総理たち(2006年、文芸春秋)

 「生涯現役の『官房長官』の下で、生涯現役の『内閣安全保障室長』として国家社会の大きな危機管理にあたる。それが私の生き甲斐だったことに、後藤田さんがいなくなって気がついた」「無茶苦茶な〝ミッション・インポッシブル〟の命令、意見を異にしたときの、烈しい論争。もってゆき場所のない公憤をぶちまけたり、人より早く入手した極秘情報を報告する喜びも、もうない」 

握手する安倍首相と東京都の小池百合子知事=2018年10月12日午前、首相官邸

 私を通りすぎたマドンナたち(2015年、文芸春秋)

(小池百合子氏について)「『男子の本懐』ならぬ『女子の本懐』というあたりには彼女の意気込みを感じる。立派な心がけというべきだろう。ただ、妙な方向に力が入ってしまう問題があったのだが、それについては後ほど述べよう」「私の目から見た忌憚のないところを述べると、自分をきらびやかな場所に置きたい人、自己顕示欲が若干強い人だと思う…ただ『取り組もう』『実現しよう』という強い意欲があるし、アドバイスを素直に聞くと言う長所がある」

(片山さつき氏について)「財務省の主計官だった時、パトリオットの予算を大幅に削減したので、テレビ番組で同席した時、それを批判したことがあった…ちょっと安定性に欠けるところがあるようだ」

 私を通りすぎたスパイたち(2016年、文芸春秋)

 「『これでいいのか、日本よ!』老兵の回想にいま一度耳を傾けてほしいと願わずにはいられない」

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