被害の区別 判断しようがない カネミ油症次世代の今・4 研究班、医学の“限界”も

 油症患者として本来救われるべき油症2世、3世が見過ごされているのではないか-。カネミ油症の研究や診断基準の設定などを担う全国油症治療研究班に対し、次世代救済を巡り患者団体の不満がくすぶる。

17年にわたり全国油症治療研究班を率いる古江班長=福岡市東区、九州大

 「じくじたる思いはあるが…」。福岡市の九州大教授室。2001年から班長を務める古江増隆(62)は一瞬顔をしかめた後、きっぱりとこう続けた。「医学的な根拠に基づかず認定はできない。そこを崩せば、班として研究を続ける意味がなくなる」

 その「根拠」とは、人体に多様な悪影響を及ぼすダイオキシン類ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の血中濃度を指す。米ぬか油に混入した有害物質ポリ塩化ビフェニール(PCB)が熱で変化したもので、毒性が飛躍的に強い。1970年代に患者の皮下脂肪や血液から検出されたが、診断基準に加わったのは約30年後の2004年。古江は「PCDFはごく微量。濃度を正確に測るだけの技術開発には時間がかかった」と釈明する。

 科学の「進歩」により定められた基準は一方で、次世代患者に立ちはだかる。ダイオキシン類は母体から胎盤や母乳を通じて子に移るとされるが、2、3世の多くはPCDF濃度が基準を下回り、認定されない。研究班の資料には診断時の「重要な所見」の一つに「血液PCDF濃度の異常」を明記しており、古江も「特に外せない」と強調する。

 ただ基準に満たない未認定の次世代患者にも、倦怠(けんたい)感や頭痛、腹痛、爪の変形、歯の異常など、直接油を摂取した1世と同様の症状が現れているケースがある。これらは診断基準の「参考となる症状と所見」に当たる。油症と関連がないと言い切れるのか。

 古江は「判断しようがない」と説明。「例えば倦怠感や腹痛は一般の人にもある。油症特有の症状かそうでないかを医学的に区別できない現状では、認定できないとしか言えない」。新たな基準を設ける難しさもにじませ、「それでも2世を認定するというなら、政治的な判断に委ねるしかない」と医学の“限界”も口にした。

 研究班は3年前から、患者の子や孫への影響調査を始める意向を示している。子や孫の疾病、症状に対して医師が出した診断書を収集し、傾向や親世代の症状との関連性を探る手法だ。しかしデータの蓄積には10年、20年単位の時間が必要な上、次世代患者がどれだけ調査に応じるかも不透明。調査方法に対する患者側の懸念は強い。

 古江は率直に語った。「長期のデータが集まれば何かが見えてくるかもしれないし、全く意味をなさないかもしれない。次世代の調査とは、そういうものです」

=文中敬称略=

© 株式会社長崎新聞社