白鯨を仕留めよ

 ハーマン・メルヴィルの「白鯨」を子どもの頃、胸躍らせて読んだ記憶をお持ちの方は多いだろう。圧倒的存在の白い鯨モビイ・ディックと人間との死闘を描いた海洋小説。

 少年少女向けは単純明快な冒険物語だが、原作に忠実な成人向け邦訳は執筆された当時の捕鯨に関するうんちくが網羅された長編だ。物語は「わが名はイシュメールとしておこう」とぞんざいかつ尊大な物言いで自己紹介する若者が〈語り部〉となって進展する。

 この若者が捕鯨船で働くことを選んだ動機が痛快だ。「財布にはまったくカネの持ち合わせがなく、陸の上ではこれといってやりたい仕事もなかったので、船出でもして世界の海という海をこの目でたしかめたいと考えた」(巽孝之訳)。

 やがて就活の大海原にこぎ出す若者はこの決定をどう受け止めただろうか。経団連が大手企業の採用面接などの解禁日を定めた指針を、2021年春入社の学生から廃止することを正式決定した。現行の指針は大学3年生が該当する20年入社が最後の世代となる。

 就活のルールは1953年に政府と大学、産業界が選考日程を申し合わせた「就職協定」が結ばれて以来、何らかの形で示されてきた。政府主導での新たなルールが策定されても経団連の関与が薄まることで有名無実化する恐れがある。

 解禁日という出航の日取りだけは決まっていたルールがなくなればすべて暗中模索になる。不安は募ろうが、まず自分が何をやりたいのか目標を定めて学生生活を充実させてほしい。それが就活の海にこぎ出す最善の準備になると信じて。

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