<直言!日本と世界の未来>本庶さんのノーベル賞受賞で考えたこと―立石信雄オムロン元会長

ノーベル医学生理学賞が京都大特別教授の本庶佑さんに贈られることになった。免疫の仕組みに関する研究が高く評価されたもので、地道な基礎研究ががんの「特効薬」につながったことに喝さいを叫びたい。

本庶さんは最初からがん治療薬を開発していたのではなく、基礎研究で偶然、免疫のブレーキ役となる分子を発見したという。予想外の結果にも落胆せず、実験を進めたことが奏功したとされる。産業応用や結果のみを追求するのではなく、熱意をもって興味のある研究を粘り強く続けることの大切さが浮かび上がる。

政府や産業界は大学などの研究開発に短期間で目に見える成果を求めがちだが、ノーベル賞級の研究を育むには腰を据えてじっくり取り組む研究を促すことが重要だと思う。

これで2000年以降、自然科学分野での日本からの受賞は、米国籍を持つ研究者を含め18人となり、米国に次いで多い。ところがこれらの研究の多くは30年以上前の日本が右肩上がりに成長していた時代に達成されたといわれる。懸念されるのは、現在の日本の研究現場が本庶さんたちを生み、育てた時代と大きく変わってきていることである。研究開発費が削減される中、短期間で実用的な成果を出すことが求められ、独創的なテーマに挑戦しにくい傾向は否めないようだ。

資源小国、科学技術立国を標榜する日本では、従来から加工貿易によって産業・経済を支えてきた。そうした中、最近は産業構造の変化、グローバル化の進展に加え、国内の生産拠点や雇用、研究・技術開発部門を海外に置く企業が増え、国内の“産業空洞化”が懸念されている。

今回のノーベル賞受賞の対象となった医療技術を筆頭に、情報家電、燃料電池、AI(人工知能)ロボット、ソフトコンテンツなどを日本が世界に誇れる先端的産業群として強化すべきである。特にナノテクノロジーズ、バイオ、IT(情報技術)、環境などの技術革新は日本の強みである。今後の課題は、日本の優位な技術分野を戦略的に拡充し、日本発のグローバルビジネスモデルとして早期に育て上げていくことだ。

その戦略のコアになるのが「人材」であり、人材をつくり、育てるのが教育である。国際競争力の基盤をつくる「教育」への情熱こそが、日本が競争力を回復する鍵である。日本も産官学連携の下、国家レベルで人学改革や人材育成を進めなければ、中国に後れを取ることは確実だ。国も企業も「人づくり」を急がねばならない時期に来ている。

私はかつて数十回にわたり中国の大学で講演を行ってきたが、印象深かったのは、中国人の高い学習意欲と教育に対する情熱である。最近の中国の大学は、国家の発展に向け、研究・教育体制の充実はもちろん、国内外を問わず産業界との連携とベンチャー企業の育成に大変積極的だ。こうした環境の中、中国では優秀な人材が多数輩出され、中国における高等教育機関の在学者数は、驚異的なペースで増加、2000万人以上に達している。

しかも中国人の若者は基本的に欧米の一流大学(大学院)に留学し、多くが首席を取り、留学後帰国せず、その地で事業を起こして成功し、実績を持って帰国し、中国の発展に貢献するケースが目立つという。

一方、日本の在学者数は約300万人程度で、絶対数で圧倒的に中国が勝っている。しかも日本は少子化のため18歳人口が激減しており、在学者が今後さらに減少していくのは確実である。我々は、中国で今後ますます増加する高度な知的労働力こそ、中国の本当の強さであることを認識すべきである。

絶対数で中国の足元にも及ばないものの、日本がグローバル競争に臨むには、生産性を高め、高付加価値化で勝負することが必要だ。日本が国際競争力を維持していくには、日本でしか作れないモノや領域を常に開拓する必要がある。そして、技術的に絶えず世界で先行することが大切である。

<直言篇65>

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