《ニュース最前線》企業のリスクマネジメント 不祥事 糧できるか

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完成車検査で不正が行われていたスバルの群馬製作所=太田市
コミュニケーションを取りながら冷凍食品を生産するマルハニチロ群馬工場=大泉町

 メーカーを中心に企業風土や従業員教育に根差した不正が相次いで発覚している。ブランドの低下や売り上げの減少、ひいては企業の存続にもつながりかねないだけに、不祥事が起きた際のリスクマネジメント(危機管理)は重要だ。

◎人と技術 信頼のため 社内風土改革が鍵

 群馬県に国内唯一の製造拠点を置くSUBARU(スバル、東京都)は昨年発覚した完成車の無資格検査の問題以降、燃費・排ガスの測定、ブレーキの力やスピード メーターの誤差など不正が続々と判明。一連の問題によるリコール台数は42万台を超えた。ブランド 力の回復に向けた社内改革に注目が集まっている。

 一方、旧アクリフーズ(現マルハニチロ)群馬工場(大泉町)やまるか食品(伊勢崎市)など、不祥事を糧に社内体制を強化して信頼を取り戻しつつある企業もある。県内に拠点がある企業のリスクマネジメントの実情を追った。

 「顧客や関係者に大変な心配を掛けてしまい、反省している。申し訳ありません」。国の基準から逸脱した完成車検査を行っていたSUBARU(スバル)。中村知美社長は9月28日、国土交通省を訪れ、新たに発覚した不正や再発防止策を含む報告書を同省幹部に手渡して謝罪した。

■3度の不正発覚

 同社は昨年10月に発覚した完成車の無資格検査問題を皮切りに、今年9月までに計3度の報告書を同省に提出。その都度、燃費や排ガスデータ、ブレーキ制動検査といった新たな不正が明らかになった。

 一連の不正問題は同社の経営にも影響。昨年11月から今年8月にかけて10カ月連続で国内新車販売台数が前年割れとなった。

 同社の信頼性の低下は下請け会社にとっても深刻な問題だ。不正が行われていた群馬製作所のある太田市には関連企業が集積し、関係者はスバルの行く末に気をもむ。金属部品会社の社長は「1度で解決できず、3度にわたる不正の発表が信頼性を落としてしまった」と指摘する。

 スバルは4月の組織改編で「正しい会社推進部」と「コンプライアンス室」を新設した。当時の吉永泰之社長が会長職に就き、社内風土の改革に努めている。一方、中村社長は品質改善に1500億円を投資すると宣言。消費者の信頼を回復し、ブランド力を取り戻せるかが鍵となる。

■半年かけ再開

 県内には過去の事例を糧に工場設備を整え、信頼を取り戻しつつある企業もある。

 まるか食品(伊勢崎市)は、2014年に消費者から会員制交流サイト(SNS)を通じて主力商品「ペヤングソースやきそば」に虫が混入していると指摘され、同年12月に全商品の生産を休止した。

 防虫対策を進めるとともに、商品をX線やセンサーカメラでチェックするなど衛生管理を強化して工場を改修。15年5月に製造を再開した。問題から4年経過した現在は、新商品が発売されるたびにネットで話題になるなど、製品への信頼性は回復している。

 13年に、従業員による製品への農薬混入事件があったアクリフーズ群馬工場(大泉町)。事件発覚後、操業を停止し、14年4月にマルハニチロ(東京都)の直営工場として再出発した。設備の拡充や従業員教育を徹底し、同年11月に全面稼働した。

 工場では現在もさまざまな再発防止策に取り組む。人感センサーやカメラを設置。ICカードなどで入退場を管理しつつ、専任者による持ち込み物の検査も怠らない。従業員の満足度調査や定期的な個人面談などを通し、働きやすい環境作りを進めている。同社は「全社レベルで意識向上に取り組み、成果が上がっている」と手応えを話す。

■管理体制を整備

 製造現場でのリスクに備え、管理体制を整備する企業も多い。化粧品会社コーセーの主力ブランド「雪肌精(せっきせい)(せっきせい)」を生産するコーセーインダストリーズ(伊勢崎市)は、安全性を考慮して17年に工場を新築した。

 従業員が配属場所に応じた衛生服を着用するほか、原材料や作業者、廃棄物の出入り口を別々に設定。動線が交差することで起こる汚染を予防する。空調整備に力を入れ、空気の流れを管理することで粉体の混入を防止している。

 東日本エリア全域のカルピスやその派生飲料を製造するアサヒ飲料群馬工場(館林市)は、全国8工場が連携して安全確保を進める。他工場で発生した事例を情報共有し、現場を再点検している。

 国も新制度を整え、企業の危機管理を後押しする。企業不祥事を内部から浄化してもらおうと、消費者庁は19年をめどに、従業員による内部通報制度の実効性が認められる会社に認証ブランドを与える。第三者による審査などを経て、適合する企業にシンボルマークを配布。風通しの良い企業としてブランド化することで、企業価値を高め、消費者を守りたい考えだ。担当者は「安全・安心な製品やサービスを提供する企業指標の一つにしてもらいたい」としている。

「迅速な指揮連絡 重要」…社会情報大学院大の白井邦芳教授に聞く

 企業のリスクマネジメントの重要性に関して、リスクマネジメント協会で顧問を務める社会情報大学院大の白井邦芳教授に聞いた。

―リスクマネジメントに取り組む上でのポイントは。

 早期発見やコンプライアンス(法令順守)を含めた管理体制の強化に加え、危機発生時に経営陣が迅速に会社を指揮する連絡系統の整備が重要だ。予期せぬリスクが発覚した場合は製造現場の直接的原因と、経営管理部門の失策など間接的な要因の両面から検証することも必要になる。

―有効な予防法はあるか。

 信賞必罰の原理原則に従い、悪いことをすれば罰せられるという事実が求められている。最新技術の活用も有効だ。人による目視と機械的検査を融合させたダブルチェックが不可欠になっている。

―危機に直面した時、どう対応したらいいか。

 経営トップが「不正や不祥事を絶対に隠蔽(いんぺい)しない」という強い信念を宣言することが最優先。企業風土の改革案や再発防止策を明示するとともに、発生から収束までのロードマップを公表、開示することが企業イメージの維持につながる。

《記者の視点》IoTやAIの活用も

 「過ちて改めざる、これを過ちという」。「論語」にある孔子の言葉を思い出す。人は必ずミスをする。リスクマネジメントはミス発生を前提にして、その失策をバネに企業活動を維持していく取り組みだ。

 一つの企業には取引先や下請けなど多数の関連企業があって、それぞれに大勢の従業員が勤務している。現代社会では一つの不祥事が、該当企業だけにとどまらず、多くの人に影響を及ぼすだけに、責任は重大といわざるを得ない。

 事件や事故はゼロにはできない。人力での検査に限界があるならば、IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)といった発展し続ける情報通信技術が、製造現場の管理体制を強化してくれるだろう。

 企業は安全対策を進めるとともに、万が一の不祥事発覚の際には、詳細な内容や解決策を素早く提示し、信頼性の維持につなげてもらいたい。(報道部 細井啓三)