【コラム・天風録】残る椿があると思えばこそ

 時代劇には少々うるさい方だが、見たことのない殺陣だった。公開中の映画「散り椿(つばき)」で、岡田准一さんと西島秀俊さんが1メートルもない間合いで互いを突こうとする。ちょっとでもずれたら、本当に刃傷沙汰だ▲ひとひらずつ花弁が散る椿が背景に見える。亡き葉室麟(はむろ・りん)さんの原作には<散る椿は残る椿があると思えばこそ、見事に散っていけるのだ>というせりふがある。藩内部の陰謀家の手にかかる、西島さん演じる側用人(そばようにん)の遺言だが、登場人物の誰が口にしてもいいと思える切なさも▲あるいは海外を意識したか。英訳の題名は「サムライズ・プロミス(武士の約束)」だという▲刀を抜くポーズを甲子園のマウンドで見せた東北の快男児をテレビ中継で久々に見た。プロ志望を明らかにした決意のほども。だがプロを率いた監督やベテランの辞任や引退の報を聞くのも、この季節の定めだろう。「やり残したことは多々あるけど、結果の世界だから」と言い残すのは口惜しさか、潔さか▲岡田さん演じる剣の達人も<散る椿>を自認するが、死ではなく旅を選ぶ。この屋敷でお待ちしますという女人の声を背に受けて。人はまたやり直せる、という作者の思いも知る。

Follow

中国新聞

on

©株式会社中国新聞社

カープや高校野球の情報が満載

カープやサンフレッチェ、高校野球などの情報をいち早くお届けする中国新聞社のモバイルサイトです。スマホでもガラケーでもOK!

詳しくはこちら