へその緒 胎児への影響重視を カネミ油症次世代の今・5 長山氏「国、研究班は放置」

 カネミ油症の症状は世代を超えて引き継がれているように見えるが、全国油症治療研究班は明確な答えを示せていない。一方、元班員で自らの研究により患者の子のへその緒から原因物質のダイオキシン類ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)を検出した長山淳哉(70)=高知市=は「化学物質の影響を一番受けるのは胎児」と指摘する。

「胎児期にPCDFに暴露したことが証明されても研究班は患者と認めない」と批判する長山氏=高知市

 元九州大大学院准教授の長山は2012年までの約30年間、研究班に在籍。同大学院生だった1974年、PCDFが油症の主因であると突き止めたが、研究班が診断基準に反映したのは30年後の04年。その間、患者の体内のPCDFは排出され、血中濃度は低下した。長山は「PCDFを中心に研究するよう内部で訴え続けたが、国や研究班は放置した。その責任は大きい」と憤る。
 研究班は今でこそPCDFの血中濃度を油症の重要な所見に挙げ、次世代患者の認定にも当てはめる。だが歳月が経過したことで、直接汚染油を食べた人でも既に濃度が下がり、認定されないままの患者は少なくない。長山は「今となっては血中濃度による科学的な認定はほぼ不可能。次世代の証明はなおさら難しいはずだ」と指摘する。
 そこで研究対象としたのがへその緒だった。認定患者の母親から生まれた人と、そうではない人のへその緒のPCDF濃度を測定。患者の子からは高濃度で検出し、10年までに胎児性油症の原因もPCDFであることを証明した。
 長山が注目するのは、化学物質に対する胎児の「感受性」だ。0・1ミリの受精卵が胎内で3キロに成長するまでにかかる時間は、わずか280日。「その急激な成長は精巧にプログラミングされているだけに、少量のPCDFでも影響は計り知れない」
 だが研究班は今も、へその緒内のPCDFの有無を診断基準に盛り込んでいない。そのため同じ油症の母親から生まれたきょうだいでも認定、未認定の差が生じている。長山が調査した3人きょうだいは黒い赤ちゃんとして生まれ、全員のへその緒からPCDFを検出したのに、認定は長男と長女だけ。次男は血中濃度が一般的な数値だとして未認定だったという。
 「胎児期に暴露したことを証明できた上、その後の健康状態が明らかに悪い人もいる。それなのに患者と認めようともしない」。血中濃度を「科学的根拠」と位置付け、これを盾に診断基準の見直しに向けた新たな研究に積極性を示さない研究班。長山は歯がゆさを募らせる。
 「遺伝子変異の有無などを含め、PCDFに特化した毒性やメカニズムの解明、治療法研究にもっと力を入れるべきだ」と強く訴えている。

=文中敬称略=

© 株式会社長崎新聞社