八ツ場ダム周辺を歩く・1 集落取り壊され跡形なく

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 緑の谷あいを巨大な壁がふさいでいた。高さ116メートルのうち、およそ8割が完成したという。そばのタワークレーンが小さく見えた。群馬県長野原町で国が進める八ツ場ダム。来年度末の完成に向け、建設工事は大詰めを迎えていた。
 見学用に国が整備した展望台にはひっきりなしに人が来た。東京都の男性(34)は「ちっぽけな人間が大自然に建造物を造るスケール感がたまらない」と興奮気味にカメラを向けた。
 国土交通省は、橋やダムなど大型公共施設で普段は立ち入れない現場を公開する「インフラツーリズム」を進める。八ツ場ダムの見学ツアーは昨年度から本格的に始まり、年間約2万9千人が参加。本年度は9月末ですでに3万人を突破した。展望台も開設3年で40万人近くが訪れ、盛況だという。
 堰堤(えんてい)から1キロほど上流にある湖面橋「八ツ場大橋」から水没する谷あいを見下ろした。かつての集落は取り壊され、跡形もない。建材運搬のため活用しているJR吾妻線の旧線路と鉄橋が辛うじて生活の面影を残していた。
 ダム湖の周りには、水没地区の住民のため移転代替地が点在している。橋に近い一角に真新しい一軒家がぽつんと立っていた。「ここしかいい場所がなくてさ」。家主の高山彰さん(65)がそう言って鍵を開けた。ギリギリまで移転を拒んだが、2016年3月に立ち退いた。水没予定地で最後の住民だった。
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 県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業では、ダムの公益性を訴える県市と「故郷を奪うな」と抵抗する反対住民13世帯の対立が続く。ダム事業は地域に何をもたらし、何を奪うのか。約470世帯が移転した土地で完成を控える八ツ場ダムの周辺を歩いた。

完成が大詰めを迎える八ツ場ダム=群馬県長野原町