本当の「核の専門家」は誰か

今年のノーベル賞週間は日本人医学者の受賞もあって大いに盛り上がった。

移ろいの早い世の中ですが、昨年のノーベル賞のことを覚えていますか?

昨年世界的に話題を呼んだのは、非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の平和賞受賞だった。核兵器を初めて非合法化する核兵器禁止条約が国連で採択されるに当たり、主導的な役割を果たしたことを高く評価された。ともに活動してきた広島・長崎の被爆者の喜びもひとしおだった。

それから1年。条約の批准国が順調に増える一方で、安全保障や核兵器の専門家と称する人たちは「核廃絶は非現実的」として、今もなお「核には核で」の「核抑止論」を主張する。核兵器禁止条約を「お花畑の理想主義」と揶揄(やゆ)する論者までいる。

ICANの国際運営委員である川崎哲さんは、この「専門家」の「現実主義」に疑問を投げ掛けるのだ。「核抑止って本当に『現実的』ですか」と。

◇ ◇

-核抑止論の方が非現実的だというのですか?

「安全保障の専門家はよく『最悪の事態を想定する必要がある』として核抑止論を唱えます。しかし彼らは『核を間違って発射する』『核保有国に変な指導者が現れて暴走する』『システムや機器の故障によって核が爆発する事故が起きる』などの事態は起きないという前提に立っている。いったいどうしてそんなナゾの自信を持てるのか」

「本当の現実主義者なら、もし核戦争が始まったときにどうするのか、そこまで考えていなければならないはず。しかし、核抑止論者から、核戦争開始後の対応について、まともな議論を聞いたことがない」

-日本政府は北朝鮮のミサイルに備えるとして避難訓練などやってましたが。

「本当に核ミサイルが飛んでくると考えているとしたら、あの訓練など甘過ぎて、あり得ないレベルです。それで『最悪の事態を想定する』というのは、ちぐはぐと言うほかない」

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-ただ「専門家」として発言されると、つい納得してしまいそうになります。

「核兵器の本当の専門家は被爆者なんです。核が落ちた時にどんなことが起きるか。その爆風、熱、におい。全部知っているのは被爆者だけ。安全保障の自称専門家は、被爆者の証言を聴いて『分かりました。でも現実は』と言う。しかし『どっちが現実なんだ』と言いたいですね」

-核兵器禁止条約にも弱点があるのでは。

「核を持たせないための検証と執行の仕組みが必要です。『それができなければ、核なき世界など無理だ』との批判は甘んじて受ける。だからこそ検証、執行の体制づくりに前向きの汗を流すべきなのです」

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確かに「暴走しない」「事故を起こさない」を前提とする抑止論は、根拠のない楽観に基づいている。政府や原発の専門家たちが「原発は安全」と言っていたのを思い出す。むしろ彼らこそ「お花畑」の住民のように見えるのだが。

核抑止と核廃絶。世界を安全にするリアリティーはどちらにあるか。「核兵器の本当の専門家は被爆者」。この言葉に、目からうろこが落ちる思いがした。

(論説副委員長)

=2018/10/14付 西日本新聞朝刊=

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