名湯再建へ、湧き出る希望 復旧へ19年春に着工も 熊本県南阿蘇村 垂玉温泉・山口旅館

山口旅館の泉源がある「金龍の滝」の滝つぼに立つ山口雄也さん。滝には露天風呂「滝の湯」があった=2日、南阿蘇村
2012年の九州北部豪雨被害の復旧工事を終え、営業を再開したころの山口旅館の露天風呂「滝の湯」と、山口雄也さん=同年9月、南阿蘇村

 熊本地震で甚大な被害を受けた南阿蘇村・垂玉温泉の山口旅館が、来春の復旧工事着工を目指して動きだした。専務の山口雄也さん(37)は「安全面を考慮して、まずは日帰り温泉として再開したい」と、132年の歴史を持つ旅館の復活へ前を向く。

 地震から14日で2年半。「匂いと感触は地震前のまま。泉源が枯れなかったことが再建に向けた一番の動機」。かつて露天風呂「滝の湯」があった「金龍の滝」の滝つぼで、湧き出る温泉の手触りを確かめながら山口さんは語った。

 明治19(1886)年創業。明治から昭和にかけ、与謝野鉄幹や北原白秋ら「五足の靴」の一行、徳富蘇峰らが訪れたことでも知られる。山口さんは8代目だ。

 本震が起きた2016年4月16日、山口さんは大津町の自宅マンションにいた。旅館への道路は寸断。宿泊客と従業員計17人が孤立した。自衛隊ヘリで無事救助されたが、姉から送られてきた写真では滝の山肌が崩れ、露天風呂は土砂で完全に埋まっていた。

 破損した道路を1時間かけて歩き、旅館に足を踏み入れたのは約2週間後。「泉源はもうだめだろう」と諦めの気持ちが強かったが、温泉が自噴する場所を見つけた。再建への決意が固まった。

 土砂の撤去作業などに協力した全国のボランティアも前に進む力をくれた。「関わってくれた多くの人に温泉を訪れてもらいたい」。そんな思いが自然と湧いてきた。  旅館までの道路復旧に時間を要したこともあり、旅館の食堂・客室の公費解体を終えたのは5月末。幸い大浴場は改修で済むことが分かった。「ロビーを開放的にして人が集える場所に」「周りの自然を整備して散策できるように」…、新たな魅力発信のアイデアは尽きない。旅館までの主要道路が復旧し、大型重機の搬入が容易になる来春以降に着工する見込みだ。

 一方、湯量が減少していることが泉源調査で判明。従業員15人も解雇を余儀なくされ、残ったのは山口さんと父で社長の一尚さん(73)だけ。不安が消えたわけではない。

 ただ、垂玉温泉の再開を願う宿泊客や地元住民が数多くいることを改めて実感した。「周辺では、多くの人の手によって治山工事や道路復旧などが進められている。温泉を復興させなければならないという責任を感じている」。山口さんは表情を引き締めた。(高森支局・田上一平)

(2018年10月14日付 熊本日日新聞朝刊掲載)

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