盤面の熱戦、障害超えて 平塚で囲碁まつり、盲学校生徒も

 「囲碁のまち」を掲げる神奈川県平塚市で恒例の「湘南ひらつか囲碁まつり」が14日、JR平塚駅北口の紅谷パールロード商店街周辺で行われ、プロ棋士と囲碁ファンとの1000面打ちに今回初めて視覚障害者の11人が参加した。このうち7人が地元の平塚盲学校など県内外から集まった小中学生。「囲碁に健常者も障害者も関係ない」との思いを抱き、全国の盲学校などで囲碁の普及に取り組んできた2人の男性の奔走で実現した。

 まつりは同市内に囲碁道場を構え、多くのプロ棋士らを輩出した故・木谷實九段(1909~75年)にちなみ今年で23回目。視覚障害者を招待するのは初の試みで、全国の盲学校などで囲碁の普及にともに取り組んできた木谷九段の三男・正道さん(70)と、日本視覚障害者囲碁協会の代表理事・柿島光晴さん(40)=東京都町田市=の活動の一環で実現した。

 視覚障害者が使うのは「アイゴ」と呼ばれる特殊な碁盤。升目の線が盛り上がり、碁石の裏の溝にはめ込めるようになっている。黒の碁石の表面には小さな突起が付いているため、指先の触った感覚で碁盤を読むことができる。

 柿島さんが網膜色素変性症で視力を失い始めたのは20歳のころ。囲碁を始めたのは完全に失明した直後で、アニメ「ヒカルの碁」(2001~03年)で興味を持ち、地元の碁会所に足を運んだのがきっかけだった。

 「視覚障害者ができるゲームは少ない。囲碁はルールが簡単で万国共通。多くの人と交流できる可能性を秘めている」と囲碁の魅力を語る柿島さんは、それまで生産停止状態だった「アイゴ」の復活にも奔走。通常の十九路盤の裏に初心者用の小さい九路盤を付けるなど改良も施し、全国の盲学校約40校に寄贈した。

 12年に柿島さんと出会った正道さんも活動をサポート。平塚盲学校など全国の盲学校で囲碁の指導を行い、16年からは岩手県大船渡市で国内外の盲学校生徒らによる囲碁大会も開催している。

 囲碁まつりに参加した県立平塚盲学校中学部2年生の吉光駿さん(13)も正道さんの指導をきっかけに囲碁を始めた一人。同校唯一の囲碁部員として3年間、腕を磨き続けた。この日は伊了初段と対戦し「やっぱりプロは強かった。これからも囲碁を通していろんな人とつながりを持ちたい」と笑顔を見せた。

 正道さんは「視覚障害者も囲碁が打てることを知ってほしい。みんな囲碁が好き。障害に関係なく対等に打つことで、その喜びが街全体に広がってほしい」と期待を込める。

プロ棋士との真剣勝負に挑む視覚障害者の子どもたち=JR平塚駅北口の紅谷パールロード商店街

© 株式会社神奈川新聞社