海に出られぬ日本丸 「生きた帆船」水路出口に歩道橋整備

 横浜・みなとみらい21(MM21)地区で公開されている国指定重要文化財・帆船日本丸の横浜港での帆走実現が遠のいている。実際に航行できる「生きた船」として保存されながら、海に出る際の水路をふさぐ歩道橋が新たに整備されるためだ。風を切って港内を駆ける姿を夢見る関係者は「日本丸がますます海から遠くなる」と悲嘆している。

 日本丸は1985年から、MM21地区の旧横浜船渠(せんきょ)第一号ドックで水に浮いた状態で保存公開されている。市は年末にも、20年ぶりにドックを排水する「ドライドック」にした上で、老朽化が著しい船体や船底の修繕工事に着手。2億9500万円の事業費のうち国が半額を負担し、市と、市民や企業などからの寄付金で残りを折半する。

 日本丸は、港内などを航行できる「平水区域航行練習船」としての船舶資格を持ち続けている。市港湾局賑(にぎ)わい振興課によると、資格があることで、市民ボランティアによる総帆(そうはん)展帆(てんぱん)や海洋教室など船内での事業が継続できる。市港湾局の伊東慎介局長は「いつでも海に出せる『生きた船』の状態を維持することに価値がある」と強調する。

 しかし、日本丸が実際に海に出るには高いハードルが立ちはだかる。市元理事で日本丸の横浜誘致に携わった帆船日本丸記念財団理事の安田岩男さん(81)によると、誘致当初はドックが海に面しており、いつでも港内を帆走できる状態だったが、MM21地区の開発が進んだこともあり、一度も実現していない。最大の関門は1994年に竣工(しゅんこう)し、MM21新港地区とMM21中央地区に架かる国際橋(幅約12メートル)。日本丸が横浜港に出る際の水路をふさぐ形で架かっている。

 さらに、横浜市会で今月4日、市の2018年度一般会計補正予算が可決、成立したことで、国際橋からさらに臨海部側に歩道橋「みなとみらい歩行者デッキ(MMデッキ)」(仮称、幅約6メートル)の架橋が決定。市は19年秋にオープン予定の「新港9号客船ターミナル施設」の歩行者デッキと合わせて整備する。

 休日ともなれば国際橋が観光客らで激しく混み合っており、市は新たに歩道橋を架けることで回遊性の向上を図る。事業費は4億円で国費と市債それぞれ1億7500万円、市の一般財源から5千万円を投じ、20年の東京五輪・パラリンピック開幕までに完成させる予定だ。

 同局政策調整課は「MMデッキも国際橋と同じクレーンで取り外し可能な構造にしたい」としており、日本丸が横浜港で航行できる状況に変わりはないとの考えだ。ただ、市民団体が日本丸を横浜港に出そうと04年に活動を始めた際、市は翌05年の市会で国際橋を取り外すクレーン作業などに10億円以上の費用がかかると説明している。市、民間のいずれが担おうとも新たにMMデッキが架かればさらに費用がかさみ、必要な作業も増大する。

 安田さんは「日本丸の大規模改修はうれしいが、国際橋に続いて新たな歩道橋が完成すると、もう海に出せないのでは」と嘆いている。

© 株式会社神奈川新聞社