佐世保と安全保障 水陸機動団新編へ・1 精鋭部隊 離島奪回の“日本版海兵隊”

 満天の星が輝いている。それ以外は何も見えない闇が広がる。午前2時前。静かな波の音が、ここが砂浜だと分からせてくれる。
 遠くで小さなライトが揺れている。陸を目指すボートに取り付けた目印用の明かり。それは、少しずつ近づいてきた。しかし乗っている陸上自衛隊員の姿はほとんど見えない。「上陸します」。陸自関係者の声で、すぐそばまで迫っていることを理解した。隊員たちはすばやく上陸。周囲の警戒に当たった。
 昨年11月中旬、鹿児島県・種子島であった自衛隊の統合演習。奪われた離島への潜入を目的とした水陸両用作戦の着上陸訓練が報道陣に公開された。ボートに乗っているのは西部方面普通科連隊員。新編される水陸機動団で中核を担う。沖合に停泊する海自の輸送艦から30分ほどかけ、たどり着いた。
 暗闇に向かってカメラの閃光(せんこう)があちこちで明滅する。「もうフラッシュはいいでしょう。訓練にならない」。陸自関係者がとがった声で制した。夜間の着上陸訓練の公開は国内では初。だが「お披露目」などではなく、あくまで“実戦訓練”の場だとうかがわせた。
 辺りが白み始めると輸送用ヘリコプターが続々と島に着陸。降り立った隊員は120ミリ迫撃砲などの武器を備え、陣地を確保した。エアクッション型揚陸艇(LCAC)も上陸。降ろした重機で砂浜を平らにし、車両も相次ぎ島に入った。空と海からあらゆる手段での上陸方法を確認した。
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 水陸機動団は県外部隊を含め約2100人で発足し、将来的に3千人規模となる。さまざまな試練を乗り越えた精鋭しか隊員になることができない。
 「水の上で冷静な判断ができない人は入れない」。準備隊の小野田宏樹隊長は言い切る。
 相浦駐屯地には、水陸両用車やヘリが水没した場合を想定した緊急脱出訓練用の施設も完成。水中で上下左右が分からない状況で脱出し、水面に上がってこなければならない。隊員には、真っ暗な海に投げ出されても自力ではい上がってくる泳力と精神力が求められる。
 1月からは米海兵隊とともに米国で総仕上げの実動訓練に取り組むなど、隊員は日々練度を高めている。小野田隊長は力を込める。「新編の翌日から戦力となる準備はできている」
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 離島防衛を主な任務とする陸上自衛隊の専門部隊、水陸機動団が3月27日、佐世保市の相浦駐屯地で発足する。「日本版海兵隊」とも言われ、他国から侵攻された島の速やかな奪回を目指す。「佐世保と安全保障」の第2シリーズは、1カ月後に迫った水陸機動団の新編を前に、部隊の役割や背景、課題を探る。

ヘリから続々と降り立つ陸自隊員=2017年11月16日午前8時29分、鹿児島県・種子島

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