『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』 ドキュメンタリー映画の教科書のような安定感

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 ベネチア映画祭の金獅子賞(特別功労賞)やアカデミー賞の名誉賞などに輝く、現代ドキュメンタリー映画界の巨匠フレデリック・ワイズマン。その記念すべき40本目の監督作(劇映画も含めると42本目)だ。何せ40本もあるわけだから扱うジャンルは多岐にわたるが、これまで日本で劇場公開されたのは舞台やアートに関わる作品のみで、アメリカ社会を捉えた作品は初公開だそう。

 主人公は町=ジャクソンハイツ。ニューヨーク市クイーンズ区の北西に位置し、13.2万の人口のうちヒスパニック系が57%、アジア系が20%という移民(とその子孫)の町で、本作でもさまざまな言語が飛び交う。ワイズマンは、この町の人や場所に分け隔てなくカメラを向ける。厳密には、より裏側、よりマイノリティたちに寄り添っているのだが、そこに政治や思想、宗教による差別化は感じ取れない。それにしても、なぜ皆カメラの前でこれほど普段通りに振る舞えるのだろう?

 そして、例によってナレーションもBGMも一切なし。カメラは原則的に三脚で固定され、無駄に動かない。構図は確かで、蛍光灯もきちんと補正されている。だからこそ、画面には奥行きも艶も運動性もあるのだ。まるでドキュメンタリー映画の教科書のような安定感。その分、はみ出しはしないのだが、見る者はこの町、というよりアメリカ社会の(厳しさも温かさもごっちゃ混ぜの)本質を、肌で感じることができるのである。★★★★★(外山真也)

監督・録音・編集:フレデリック・ワイズマン

撮影:ジョン・デイヴィー

10月20日(土)から全国順次公開

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