『世界で一番ゴッホを描いた男』 本物の絵を見るため、旅に出た画工を追う

(C)Century Image Media (China)

 中国深セン市にある大芬(ダーフェン)は、「油画村」と呼ばれている。この町には1万人に及ぶ画工が住み、ゴッホをはじめ有名画家たちの複製画を制作。世界市場の実に6割をも占めるそうだ。これは、中国人の父娘監督が2011年から2年以上かけて撮影したドキュメンタリー映画。

 彼らは6人の画工に密着し、撮影中にそのうちの2人に“物語”が生まれたという。特にその一人、家族でゴッホの複製画を手掛けるチャオ・シャオヨンへ編集でフォーカスしている。出稼ぎでこの町に来て以来20年もの間ゴッホの複製画を描き続けてきたというのに、本物のゴッホの絵を見たことがなかった彼は、家族の反対を押し切りアムステルダムへと旅立つ。本作はドキュメンタリー映画にもかかわらず、その旅によって起こった彼=主人公の内面の変化が、まるで劇映画を見ているかのように伝わってくるのだ。

 そこには、被写体から素の魅力をすくい取る現場での手腕だけでなく、編集上のテクニックも大きく寄与している。最たる例が、昼夜を問わず幾度となく画面を横切る列車。もちろん大半が時空の省略(時間経過や場所の移動)を表現する挿入カットなのだが、絵画という動きの少ない題材の中に運動性を持ち込んで画面を活気づける効果も大きい。同様に、常に激しく降る雨もとても映画的。ドキュメンタリーはあまり観ないという人にも、ぜひ観てほしい秀作だ。★★★★★(外山真也)

監督:ユイ・ハイボー、キキ・ティンチー・ユイ

出演:チャオ・シャオヨン

10月20日(土)から全国順次公開

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