風の大地美術館にて

 長崎市の寺町通りから墓地の間を縫う急な細道を上った。坂本龍馬の銅像が立つ風頭公園や亀山社中記念館へと向かう道。風情ある石段を息切れしながら進めば、長崎の街並みが眼下に見えてくる▲目的地は風頭公園近くの高台にある「風の大地美術館」。中学の美術教師を退職して画家専業となったウエダ清人さんが昨年11月、アトリエの一軒家を改修してオープン。自作などを展示している▲坂道を上り下りする観光客にとって、その途中にあるこぢんまりした美術館はちょうどよい休憩場所。1日7~8人が訪れるという。一人旅の歴史好きが多いとか。関東や北海道など遠来の人も珍しくない▲展示を見てもらいながら話を交わす。長崎観光の穴場を紹介したり、外から見た長崎の良さを教えてもらったり。美術関係者以外へも出会いが広がったのがうれしいとウエダさんは語る▲一帯は昭和40年代に開発された斜面住宅地。今は空き家が増えているという。美術館の隣は、空き家が解体された更地。人口が減りつつある長崎の現実を感じさせる風景▲そんな町の一角に、地元の人と遠来の客が出会って語らう場所があれば、ささやかな活気が生まれるだろう。ウエダさんのような小さな営みが各地で積み重なり、交流人口の拡大につながっていけばいいと思う。(泉)

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