母と過ごした最後の日々 慈愛に満ちた言葉に救われ 長崎出身フリーライター 小出さん出版 「シスター・ヒロ子の看取りのレッスン」

 長崎市生まれのフリーライター、小出美樹さん(53)=神奈川県鎌倉市在住=が、著書「シスター・ヒロ子の看取(みと)りのレッスン」(KADOKAWA刊)を出版。聖フランシスコ病院(長崎市)のホスピスで末期がんの母と過ごした最後の日々をつづった。大切な人との死別に向き合う心構えを、ふわりと教えてくれる一冊。
 「喪失感はあるけど後悔はないですね。充実した気持ちが後を引いている」。6年前に72歳の母を看取った経験を振り返り、小出さんはそう語る。
 長崎市に暮らしていた母弘子さんは60歳の頃、大腸がんを発症した。その時は手術に成功したが、約8年後に胃がん、その後も肝臓にがんが見つかった。末期だと分かると、初めは在宅医療を選択。最後の2週間はホスピスを利用し、そして亡くなった。
 小出さんはホスピスに泊まり込んで、弘子さんに寄り添った。「スタッフの皆さんが優しくて、家族の私にも絶妙な距離で心を寄せてくれる。ホスピスは悲しい場所だと思っていたけれど、一秒一秒がいとおしい、濃密な時間を過ごせた」
 小出さんが「救われた」と語るのが、聖フランシスコ病院のシスター、石岡ヒロ子さん(70)との出会いだった。シスターはホスピス病棟などで、患者やその家族と対話するパストラルケアに当たっている。
 「今日のご気分はいかが?」「素敵(すてき)ねえ、もうすぐ神様に会えるのよねえ」「天国も極楽浄土も隣の座敷みたいなもんですよ」-。
 病室で困ったことがあると、シスターはするりとやって来て、時にビックリするようなことを言ってその場を笑顔に変えていく。死に直面しながら、小出さんも母も共に最後はよく笑っていたという。
 同書は、小出さんが「究極のホスピタリティ(もてなし)」と気づいたシスターの慈愛に満ちた言葉を、「看取りのレッスン」として紹介。それとともに、ホスピスに入所するまでの経緯やホスピスでの日常、父や妹ら家族の苦悩を小出さんの目線で紡いでいる。
 「看取りは死にざま、生きざまを見せてもらうこと」と小出さん。在宅で病状が悪化してから亡くなるまでの約1カ月半、母のそばに居続けた。小出さんは夫を突然の事故で亡くしたつらい経験があり、「今度は絶対に大切な人と最後の時間を過ごしたいと強く思っていた」。
 ある時、ホスピスに父方の親戚が見舞いに訪れたことがあった。弱っていく姿を他人に見せたくない母は面会を断りたがったが、父と親戚は構わず病室に入っていく。小出さんが廊下で泣いて憤っていると、シスターは声を掛けた。「うん、いいのよ、どうせ死ぬとき許すんだから」
 「その言葉に一番救われた。介護や看取りの現場って、家族の中で互いの嫌なところが見えてくる。それを『ああ、そっか』と思わせてくれた」。ホスピスでの日々は、人の優しさをあらためて気づかせてくれた。「死にゆく人は残される者にたくさんのプレゼントをくれる。看取りを悲しいものと思わないで、全てを受け入れて目を背けないことが大事。そういう心持ちでいたら誰でも素敵な別れができる」
 「シスター・ヒロ子の看取りのレッスン」は四六判、184ページ。1404円。18日に全国の書店で発売。

「母を看取れたことは光栄でありがたかった」と話す小出さん=長崎新聞社
「シスター・ヒロ子の看取りのレッスン」(KADOKAWA刊)

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