正面で捕らなくていい―広島菊池が語る守備の“流儀”「試合ではアウトならOK」

Full-Countの単独インタビューに応じた広島・菊池涼介【写真:重枝克典】

守備の名手に独占インタビュー、野球少年へのアドバイスは「絶対的なものはない」

 球団史上初となるセ・リーグ3連覇の偉業を果たした広島カープ。菊池涼介内野手は二塁手として両リーグトップの守備率.995を記録し、華麗な守備で栄冠に貢献した。

 5年連続でゴールデングラブ賞を受賞中の最強二塁手は「正面でボールを捕る」という日本野球のセオリーから超越した華麗かつ、トリッキーな守備でヒット性の当たりをいとも容易くアウトにしてしまう。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)や日米野球などで海外からも「忍者守備」と評価される名手はFull-Countの単独取材で野球少年に菊池の流儀を伝えている。

――菊池選手は肩も強いし、足も速い。鉄壁の守備を下支えしている身体能力は抜群ですが、それは生まれつきのものでしょうか?

「肩はどうですかね、多少の無理は効きますね。僕は送球に関してはいけると思ってやっているので、それは普通だと思っている。足は高校(武蔵工業大学第二高)時代から人よりもちょっと速いぐらいで、長打力は全然でした。大学(中京学院大)時代でもフィジカル的なトレーニングはそんなにしませんでしたね。ただ、ロングティー好きでした。ボールを遠くに飛ばしたいなっていうのもあって、それが結果的に打撃には生きるようになりました。足(が速くなったの)はいつの間にかです(笑)。肩も徐々にですね。スローには元々自信があったので、そういうのも含めて筋力もちょっと大人になってきたというか」

――スピード、パワーという部分は大学生で伸びたんですね。晩成型だったのでしょうか?

「体の成長という部分も影響があったかもしれません、僕は早生れで90年生まれです。他の選手が89年だったので成長が少し小さかったんですけども。大学1年から2年、2年から3年……と学年が上がっていくごとに体も強くなったし、足も速くなっていきましたね」

――今、白球を追っている野球少年はどういう練習をすればいいのでしょうか。どうすれば、菊池選手のようになれるのでしょうか。何か、いいアドバイスはありますか?

「これは難しいですね。これっていう絶対的なものはないと思っているので。ただノックの数は受けないといけないと思います。僕自身は高校時代までに散々と言っていいほど受けてきました。ショートバウンドで捕るとか、そういう感覚は数を受けないとやっぱり養われない部分があると思います。僕がプロに入った時、堂林(翔太)がサードだったんですけども、彼は高校までピッチャーだった。だから、ノックを受けている数が全然違う。彼自身も今までピッチャーで守備をしていた感覚があると思うけれど、三塁の場合は感覚が全く異なってくる。今で言うと庄司(隼人内野手)。彼も高校時代はピッチャーだった。自主トレに一緒に行っているのですが、最初の時はやっぱり打球を捕る感覚はぎこちない。例えば、ポンとボールが跳ねたんだから、前に出なさいよっていうのがなかなか分からない。経験というものは大事だなと思います。今まで受けてきた数は正直だなっていうのはありますね」

自身のグラブさばきについて語る広島・菊池涼介【写真:重枝克典】

「基本的に試合になれば、打てばOK、アウトになればOK、セーフになればOK」

――ノックの数をこなすこと、ですね。武蔵工業大学第二高校時代までみっちりと基礎を練習してきた。菊池選手は昨季まで5年連続でゴールデングラブ賞受賞です。そして、侍ジャパンのプレーが認められて、海外メディアでも「忍者守備」「神の手」と絶賛されています。メジャーの選手やメディアに評価されるという部分は刺激になるのでしょうか?

「これまでのことを考えると、マジかっていう感じでもします。 WBCであったり国際大会に出させてもらってますけど、でもやっぱり向こうの選手と比べたら僕なんてまだまだなので、そう思います。常に向上心というのはあるので、僕も向こうの選手みたいになりたいと思っているので。日本の野球にとらわれないと言うか……。もしも、僕が野球教室をやったら、“打球を正面で捕りなさい”とは子供たちに言わないんだろうなって思います」

――打球を真正面で捕らなくてもいい、ですか。高校時代にたくさんノックを受けて、基礎を固め、大学時代の4年間で応用編のフリースタイルに磨きをかけた菊池選手だからこそ響く言葉です。

「基本は大事です。打球に対して真正面の体勢で入ることも重要です。けれども、やっぱり基本的に試合になれば、打てばOK、アウトになればOK、セーフになればOK。つまり、結果の世界なんです。ただそれを小学生とかに言えないんですけども、結果的にアウトにできるなら、効率性が高ければ、どんな形でもいいんじゃないかと僕は思います。自分のやりやすいやり方でいいんじゃないかなって最近は感じていますね」

――アウトにするための効率性こそが大事だということですね。例えば、メジャーの一流の内野手はアウトを取るために、セオリーから考えられないようなプレーを出してきます。シアトル・マリナーズのロビンソン・カノ二塁手のトリッキーなグラブトスは菊池選手に共通する部分を感じますが。

「カノと僕のグラブトスもまた違うんですよね。彼はオシャレというか、また華麗ですからね。僕の場合、ココイチでしか、グラブトスしない。そういう部分が、日本と向こうの違いだと思うんですけども。彼らはいかに効率性を高めるか。無駄と消耗を避けて、エレガントに魅せるか、という部分も追求していますよね。僕も最近キャンプでは、監督・コーチ陣の目を盗みながら、色々できないかと。そういう部分にもチャレンジしています(笑)。感覚やセンスの部分もある。できる人とできない人がいると思います。ちょっと恵まれた感覚の持ち主と言うか。親からもらった天性の部分だと思うんですけど。親にありがたいと言いたいです。そういう感覚とかは、親から授けられたものなんじゃないか、と。僕だけじゃなくて遺伝子なんだろうなって思う時はあります」(Full-Count編集部)

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