新たな「船出」

 焦らず慌てず、時機を待て。そんな戒めとして「待てば海路の日和あり」と言う。時として、待ってはいられず荒波の中を出航する、そんな場合もあるらしい▲波高しと知りながら、有志たちが“船出”した。五島産業汽船(新上五島町)が経営破綻して離島航路をいきなり休止・廃止した問題で、元従業員らが同じ名前の新会社をつくり、運休している長崎-新上五島・鯛ノ浦の航路を引き継ぐことになった▲旧会社から高速船などをすでに買い取っており、1日2往復する計画という。県内の建設会社の関係者らも出資した。新会社の社長(44)は彼らに背中を押されたらしい。「一日も早く航路を再開するために、従業員でやってみないか」と▲旧会社がやっていた佐世保-新上五島・有川の路線は、九州商船(長崎市)も運航中だが、今のダイヤでは佐世保に長くはいられない。通院などの日帰りに不便というので、九州商船はダイヤ変更を検討している▲動きが素早いのに驚き、関係者が航路を支える思いのどんなに強いことかと驚く。離島便がどんなに欠かせないものかと、改めて知る▲もちろん、これで心配の種が消えたわけではない。何よりも、新「五島産業汽船」が旧会社の轍(てつ)を踏まないよう望まれる。荒波の早く静まることを。海路の日和の来ることを。(徹)

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