【ニュースの周辺】英の「リバティ」規模急拡大

インド系オーナー、現代版「ミッタル流」か

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 英国を本拠とするリバティ・ハウスが果敢なM&Aで急拡大している。直近にアルセロール・ミッタル(AM)と合意した欧州4事業の買収後には、鋼材年産能力が約1500万トンへ拡大し、世界の鉄鋼業でも一大勢力へ浮上する見通しだ。各国で経営不振の企業を続々と買収し規模を拡大するその姿は、かつてのラクシュミ・ミッタルAM会長の手法を思い起こさせるものがある。(黒澤 広之)

 6月に開かれた東南アジア鉄鋼協会(SEAISI)のジャカルタ大会。基調講演にはリバティの会長、サンジーブ・グプタ氏が招かれていた。グプタ氏は米国出張を理由に会場には現れなかったが、5分以上に及ぶビデオメッセージで自ら率いるグループや鉄鋼業への思いを語った。

 グプタ氏はインド出身で本拠は英国のロンドン。ラクシュミ・ミッタル氏と似た経歴だ。父親が自転車用のファスナーを造る工場などを興しており、グプタ氏自身はケンブリッジ大学在学中の1992年に今のリバティを設立。当初は金属商社で鉄や非鉄のトレーディングが生業だった。

 リバティの名が注目され始めたのは2013年、英国の熱延コイルメーカー、MIRスチール(リバティ・スチール・ニューポート)を買収し、当時は英国内で驚かれた。

 中国発の過剰生産で世界中の鉄鋼メーカーが苦境に陥ると、リバティの動きは一気に加速する。16年に英国撤退を決めたタタ・スチール・ヨーロッパからは厚板や鋼管、特殊鋼事業を買収。昨年にはAMの米国ジョージア州の電炉や、経営破たんした豪州2位の鉄鋼メーカー、アリウム(現在はリバティ・ワンスチールへ改称)を手に入れた。冒頭のSEAISIの大会も、加盟国の一つである豪州代表という位置付けだった。

 リバティの動きは今年に入っても活発だ。グプタ氏の母国・インドでは過剰債務を抱えた自動車部品メーカー、アムテック・オートの再建スポンサーに選ばれたほか、明日にも結果が公表されるブーシャン・パワー&スチールの買収にも手を挙げている。

 そして今回、AMからはチェコやルーマニアの高炉一貫製鉄所、マケドニアとイタリアのリロール事業も買い取ることを決めた。地理的には脈絡なく、対象品種も多岐にわたる。ただAM出身者を幹部に起用したり、潤沢な資金力で取引条件を改善するといった再建の手腕を評価する声も聞かれている。

 グプタ氏は機械加工の英国エンジニアリング会社や父親が創設したエネルギー事業会社のSIMEC、不動産会社も資産に抱え、15年末には銀行を買収し金融事業も手掛けている。鉄鋼に限らずリオティント・アルキャンからは英のアルミ事業を買収したり、この3月には米国フロリダ州タンパのスクラップ会社を傘下とするなど近年の投資先は数え切れないほどだ。

 今でこそ業界の著名人となったラクシュミ・ミッタル氏も20年ほど前は東欧の国営製鉄所を買収する謎の人物だった。そのミッタル氏からチェコやルーマニアの製鉄所を手にするグプタ氏の針路もまた謎に包まれている。