「最強たて」アトレティコ×「特殊ほこ」ベティス!最先端の戦術バトルを読み解く

今季のリーガ・エスパニョーラも例年通りレアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコ・マドリーの3チームがタイトルを争う格好になると予想されている。

だが、その次の4位争いも優勝争いと同じようにデッドヒートを繰り広げるだろう。その中でもクオリティの高いサッカーで注目を集めているのが、日本代表の乾貴士も今シーズンからプレーしているレアル・ベティスだ。

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監督は攻撃的なスタイルを好むキケ・セティエン。昨シーズンから指揮を執り、15位だったチームを一気に6位まで押し上げてEL出場を果たした。

そんな彼らとリーガ第8節で対戦したのは世界最強クラスのプレッシングと組織的守備が誇りのアトレティコ・マドリー。しかし今シーズンのアトレティコは攻撃にも工夫が見られ、徐々に万能なチームに近付いてきている。

最高峰の「盾」と最先端の「矛」同士の激突で垣間見えたプレス対ビルドアップの攻防が非常に面白かったので、それを分析して紹介しようと思う。

なお、フォーメーションはこの通り。

アトレティコの仕掛けた罠

知っている人は多いかもしれないが、レアル・ベティスはボールを保持しつつ攻めていくタイプのチームである。そんなベティスに対抗するためにアトレティコが採った作戦は、「トラップディフェンス」と呼ばれるものだった。

トラップディフェンスを簡潔に説明すると、相手の保持するボールをある特定のゾーンに誘導してそこで奪い取りに行く、といった戦術である。特定のゾーンにボールが届いた時点でボール保持者の選択肢をできるだけ減らしておくことが理想的だ。

上図はアトレティコの仕掛けたトラップディフェンス。

まずは2トップの2人がベティス3バックのバルトラとシドネイにプレスに行く(矢印①)。

そうすると自然と3バックの右のマンディがフリーとなる。これがアトレティコの仕掛けた罠なのだ。

プレスをかけられたバルトラとシドネイは空いているマンディにパスを出す。するとロドリとコケがベティスの中盤2人にマークに付き、サウールorルマルがマンディに狙いを定めて奪いにかかる(矢印②)。

フランシスはルマルによってパスコースを遮断されてフリーの選手が存在しにくい状態になり、マンディの選択肢はかなり限られていた。

よって奪いどころは図の円の部分に設定されており、効果的なトラップディフェンスが発動していたと言える。

レアル・ベティスの特異な組み立て

アトレティコにハイクオリティの罠を仕掛けられたが、これに対するベティスのビルドアップが非常に面白かった。図で説明しよう。

組み立ての際、まずはGKのロペスからセンターバックのうち誰かにボールが渡り、リターンパスでロペスに返す。その瞬間3バック中央のバルトラが中盤の位置まで上がり、なんと同時にGKのロペスがバルトラのいたポジションまで上がって来る。

多少リスクはあるが、ミドルサード(ピッチを横に3分割した真ん中のゾーン)で4対5、もしくはホアキンが降りてきて4対6の数的優位を作り出すことに成功していた。

こうすることでアトレティコの2トップはベティス最後方の3人に迂闊にプレスに行けなくなり、その隙をついてショートパスを素早くつなぎ一気にビッグチャンスも作り出したのである。

いるはずのない選手を増やしてマークをずらし、守備側を混乱に陥れる好例だと言える。

独特のビルドアップによりアトレティコはマークが噛み合わなくなり、後半まで掴まえ所を見失っていた。

ベティスのポジショナルプレー

今回紹介したレアル・ベティスのビルドアップでは、3バックの真ん中のバルトラが中盤に上がって数的な優位を得たり、相手のマークをずらしていって相手より良いポジションでボールを受けて位置的な優位を確保したりといった“ポジショナルプレー”と呼ばれる方法論が採用されている。

これについては、ヴィッセル神戸の新監督に就任したファン・マヌエル・リージョ監督についての記事で軽く触れているため、そちらもぜひ見ていただきたい。ポジショナルプレーについての本格的な記事はまた別の機会に書き留めたいと考えている。

話は戻るが、ベティスの配置は非常に興味深い。

GKのロペスがバルトラの空けたポジションに上がることは予測していなかったが、バルトラの上がりは数的優位を保つための策として何度か見られた光景である。

生まれ変わりつつある乾貴士

またセティエン監督は、「ポジション外で30回ボールに触ることよりも元のポジションで5回触る方が良い」とインタビューで発言するほど選手にポジション厳守を求めている。

バルトラのポジション移動は許容範囲なのかもしれないが、他の選手のポジションチェンジはあまり見られない。

よって、ベティスでウィングより内側のシャドウストライカーやトップ下としてプレーする乾貴士は、ワールドカップでも披露した得意のカットインからのシュートはほとんど出来ないかもしれない。

だが今シーズンは、エイバル時代に乾がボールを受けていたタッチライン際にウィングバックが位置取りするため、ゴール前で彼らからパスをもらってアシストに繋げたりそこからシュートを狙ったりと、新しいスタイルの乾が見える可能性も十分にある。

さらには中盤の選手からボールを受けて、FWの選手に繋ぐ役割や反転してドリブルで打開する役割なども担うことになるはず。

マンチェスター・シティやチェルシーに引けを取らないほど最先端の攻撃的サッカーを披露するレアル・ベティスで、果たして乾は自身の殻をさらにもう1度破ることはできるのだろうか。

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