震えるほどの“おバカ”。卓球版スター・ウォーズ「燃えよピンポン」を見よ

スポーツを題材にした映画にとって「引きの画」は大敵だ。演者のフォームや仕草が「素人丸出し」であることがわかってしまうからだ。「寄りの画」であればCGやカメラワークで逃れることができ、稚拙なアクションがバレることはない。もちろん演者は役を作り込み、カメラマンや演出はそれを巧みに糊塗しようとするのだが、「引きは無情」だ。日々プロスポーツを目にしているのとは雲泥の差があることがわかってしまう。

余談ではあるが、SMAPが6人時代に主演したサッカー映画「シュート」(1994年)などは最たる例だろう。木村拓哉扮する久保嘉晴の“伝説の11人抜き”のシーンで魅せた、相手を翻弄する「シザースフェイント」はクネクネとタコの踊りを披露しているようにしか見えない。25年前の20代のSMAPの若さも相まって、むしろ微笑ましく思えてくるから不思議だ。

ならば、リアリティを追求せず、「いっそバカなことやろうぜ」との勢いで生まれたのが“ハリウッド初のピンポンムービー”「燃えよピンポン(Balls of Fury)」(2007年)だ。無論、「燃えよドラゴン(Fist of Fury)」(1972年)のオマージュである。同作は『ナイト ミュージアム』の脚本を手掛けたロバート・ベン・ガラントとトーマス・レノンが手がけたパロディー満載のおバカ映画だ。

あらすじ

かつて「天才少年」ともてはやされた主人公・ランディは今では場末のカジノでピンポン曲芸を披露して小銭を稼ぐ日々を送る。そんなランディがFBIの極秘指令を受け、裏社会で極秘に開かれる卓球大会に潜入捜査を開始。ランディは盲目の卓球名人に弟子入りして腕を磨く。猛特訓の末、出場権を獲得するが、待っていたのは敗者が殺害される過酷な“卓球デスマッチ”だった。

ワン師匠はさながらヨーダを思わせる中国の老人、敵の首魁である“短パンの悪魔”ことフェン(クリストファー・ウォーケン)は元ワンの弟子であり、さながらダース・ベイダーと言ったところだろうか。暗黒面に堕ちた元兄弟子を倒すあたりもスター・ウォーズを踏襲している。制作費は2500万ドル、約25億円だ。日本で言えば「男たちの大和」が25億円と言われているからそのスケールの大きさが伺える。

見どころの一つが作中で要所に盛り込まれる“偽オリエンタル”だ。中国式の御殿に住まうフェンは力士が担ぐ神輿に乗って移動し、横で侍らす従者は膝上までのセクシーな浴衣を身にまとう。おそらく日本と中国と韓国の区別もついていないであろう典型的アメリカ人の「これが東洋だ!」という思い込みを具現化したような映像の連続はむしろ清々しい。

そして冒頭の「引きは無情」の話に戻る。実はおバカ映画の体裁を取りながらもC・ウォーケンやマギーQ、マシ・オカなどの実力派に支えられ、アクションシーンは意外にもしっかりしている。バックハンドを集中して鍛えるシーンも見られる。もちろん、1人対4人で4つボールを使ったラリー戦や、ナイフで襲ってきた暴漢をラケットで退治したり、小さな匙で練習し打球力を高める修行などは荒唐無稽だが、まだ理解の範疇だ。

冒頭から後半までは、少なくとも「卓球をやろう」という意識は感じられる同作だが、それも「ラストマッチまで」のこと。ラスボスの“短パンの悪魔”とのラストマッチではついに卓球ですらなくなってしまう。「卓球台以外もアリだ」と一方的なルール改定を告げ、壁や床などの台以外のワンバンウンドも認めるのである。主人公とラスボスはルーク・スカイウォーカーとダース・ベイダーさながら、甲冑を模した「殺人電流ベスト」を着込んで、吊橋や“エセ東洋御殿”などいたるところで一騎打ちを繰り広げていく。

ぶっちゃけて言うと、同作の筋書きそのものは陳腐だ。突如織り込まれるラブストーリーや、意味もなく多くの人が死んでいくのもまったく視聴者には飲み込めない。「ピンポン」や「ミックス」など卓球を題材にした日本映画と比べると、同作はもはや卓球映画ですらないかもしれない。それでも卓球ファンとして「あの映画見た??」と言ってしまいたくなる不思議な魅力が、この作品にはある。ハリウッドが全身全霊で「おバカ」をやってのけるZ級の作品、卓球好きとしてはフォローしておいて損はないだろう。

文・写真:ラリーズ編集部

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