トヨタ カムリ新グレードWS 試乗 | これが“本気”仕様か?より意のままに動くスポーティーセダンへ進化

トヨタ カムリWS

セダン“冬の時代”におけるカムリの現状

今の自動車メーカーは世界的な大企業に成長して、ダイハツ以外は、世界生産台数の80%以上を海外で売るようになった。

この海外指向を象徴する商品がトヨタ カムリだろう。1980年に発売された初代モデル(セリカカムリ)は国内向けだったが、1990年代に入ると海外指向を強め、1996年に発売された6代目(カムリグラシア)で3ナンバー車になった。現行型は10代目で2017年7月に発売されている。

カムリは北米市場だけでも1か月に平均3万台前後を安定して売るが、日本国内では、2018年度上半期(2018年4~9月)の1か月平均で1300台少々だった。今の国産Lサイズセダンは、クラウンなどの一部例外を除くと、大半がカムリと同じく海外向けに開発される。月販平均が1000台以上なら堅調な部類だが、カムリの生産総数に占める国内の割合はきわめて小さい。

そして現行カムリは、2017年7月の発売時点で国内の月販目標を2400台に設定したが、2018年度上半期は前述の1300台少々にとどまる。発売から1年足らずで、売れ行きが目標の半数程度まで落ち込んだ。発売時点で開発者は「新型カムリを切っ掛けに、日本でセダンを復権させたい」と意気込んだが、今のところ空振りに終わっている。

◆専用パーツを多数装着!トヨタ カムリWSの内外装を画像で見る

「Worldwide Sporty」を名乗るカムリの本気グレードが登場

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この厳しい販売現状を打破することも視野に入れて。新グレードのカムリWSが設定された。WSは「Worldwide Sporty」の略称で、世界に通用する高性能車という意味だろう。

カムリはそこまで日本が嫌いなのか? と思ったりするが、WSは外観をカッコ良く仕上げた。フロントグリル、前後のバンパー、サイドマッドガードなどは、いずれもスポーティな専用デザインで、マフラーは左側の2本出しだ。いずれも北米仕様のXSEなどに準じた外観となる。

アルミホイールは、標準装着されるのは17インチだが、オプションで18インチのブラック塗装も用意した(レザーパッケージも18インチを標準装着する)。WSを選ぶなら、18インチタイヤ装着車がピッタリだろう。

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内装ではシートが専用の形状になり、装飾も異なる。パドルシフトが装着され、ハンドルを保持しながら6速の疑似変速も行える。

サスペンションはWS専用のスポーツ仕様になり、操舵に対する反応を機敏にするなどチューニングを施した。

WSの追加に伴って、ナビゲーション&オーディオには、JBLプレミアムサウンドシステムを加えている。インテリジェントクリアランスソナーの標準装着など、安全性も高めた。

なおエンジンは、従来と同じく直列4気筒2.5リッターエンジンをベースにしたハイブリッドシステムを搭載する。海外仕様と違って、2.5リッターのノーマルエンジンやV型6気筒の3.5リッターエンジンは設定されない。

イメージ通りのラインをトレースできるハンドリング性能

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カムリWSのテスト車両が用意できたというので、早速試乗してみよう。テスト車は、18インチのタイヤを装着するカムリWS“レザーパッケージ”(434万1600円)だ。

従来から設定のあった標準ボディと異なるのは、操舵した時の車両の反応だ。カムリはTNGA(Toyota New Global Architecture)の考え方に基づく新しいプラットフォームを採用するため、ステアリングの支持剛性も高く、ハンドルを操作した時の反応は正確な部類に入る。カムリWSでは、そこをさらに洗練させた。比較的小さな舵角から車両の向きが変わるので、ドライバーが意図した走行ラインに乗せやすい。車両との一体感を得る上でも有利だ。

峠道を走った時の車両の動きも、上手にチューニングされている。車両重量が1500kgを上まわるLサイズの前輪駆動セダンだが、カーブを曲がる時に旋回軌跡が外側へ膨らみにくい。カーブの手前で減速した後、ハンドルを少し意識的に内側へ切り込む感覚で曲がると、車両の向きを積極的に変えやすい。

この性格は現行カムリの全車が備えるが、WSはさらに少し曲げやすい方向に設定した。標準ボディに比べると、曲がりやすい分だけ後輪の接地性が下がる場面もあるが、常に粘りながら挙動を変えるために安定性は損なわない。支障のない範囲で、タイヤのグリップバランスを少しだけ前輪寄りに改めた。

走行性能を高めた代わりに乗り心地は少し硬いが、粗さは抑えられて一種の密度感が伴う。路面のデコボコは伝えるが、不快な印象はない。速度が高まるに連れて快適性が向上するから、高速道路を頻繁に走るユーザーに適するだろう。

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試乗車が装着していた18インチタイヤ(235/45R18)の銘柄は、ブリヂストン トランザT005Aで、指定空気圧は前後輪ともに240kPaであった。指定空気圧は少し高めだが極端ではなく、乗り心地も損ないにくい。JC08モード燃費は28.4km/Lだから、売れ筋のGグレードと等しい。

WSで注意したいのは取りまわし性だ。最小回転半径は、17インチタイヤ装着車は5.7mで、18インチになると5.9mに達する。ボディサイズも全長が4940mm、全幅は1840mmになるため、購入する時は縦列駐車や車庫入れなどを試したい。

加速感は3リッターエンジン並の力強さ

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ハイブリッドシステムの動力性能は、ほかのグレードと同じだが、実用的には十分だ。モーターの駆動力に余裕があり、巡航中にアクセルペダルを緩く踏み増した時の加速感は、排気量が3L前後のノーマルエンジンに匹敵する。

フル加速ではパワーの盛り上がり方が意外に大人しいが、それでも2.7Lくらいの印象だから、燃費効率とのバランスを考えても動力性能は満足できる。

装備内容を考えれば、カムリWSはお買い得

価格はWSが367万2000円で、WSレザーパッケージは434万1600円になる。試乗したWSレザーパッケージの価格は、標準ボディのGレザーパッケージ(アルミホイールのサイズは18インチ)に比べて11万3400円高い。

内外装のパーツだけで、価格換算額は10万円前後に達するから、パドルシフトや専用の足まわりが備わることも考えると、レザーパッケージを含めたWSは買い得だ。

“本命”グレードを後から出すのは不親切に感じられる

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今のセダンの価値は、後席とトランクスペースの間に隔壁を備えることによる高剛性と、重心の低さにある。つまり走行安定性と乗り心地のバランス、いい換えれば安全と快適がセダンのメリットだから、WSはカムリの本命といえるだろう。

このような主力グレードを、販売のテコ入れ対策のように後から発売するのは不親切だ。売れ行きを保つ上では効果的だが、先に買ったユーザーは「1年待てば良かった」と後悔してしまう。欠点を直す改良は積極的に行うべきだが、価値観の違うグレード追加は、慎重にやらないと顧客の満足度を下げる。

特に今は、昔に比べるとセダンの売れ行きが大幅に下がった。セダンを買うのは、クルマ好きのユーザーが中心だから、売れ行きを考えてもカムリはWSを最初から設定すべきだった。カムリに限らずセダンは崖っぷちに立たされ、もったいぶっている余裕はない。最初から全力投球で行くべきだ。このことは月販目標の半数という、カムリの売れ行きが示している。

[Text:渡辺 陽一郎 / Photo:和田 清志]

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