「ロボットは人間になれる」開発者が語る未来 大阪大の石黒浩教授に聞く

大阪大の石黒浩教授とアンドロイド=大阪府豊中市の大阪大

 世界的なロボット研究者で、タレントのマツコ・デラックスさんや作家の夏目漱石、さらには自分自身にそっくりなアンドロイドを開発したことで知られる大阪大の石黒浩教授に、ロボット開発を通して見えてきた世界や仮想現実(VR)の未来を聞いた。(共同通信=吉本信頼)

 ―なぜロボットを作り始めたのですか。

 人間を理解したかったからです。人間に酷似したアンドロイドの研究を続け、どこまで本物に近づけるかという人類永遠の課題に挑んでいます。既にロボットの外見は人間と区別できないレベルに到達しました。

 ロボットは人を映す鏡だと考えています。研究をすればするほど人間とは何かという問いを突き付けてくる。人間の能力を機械に置き換える技術を開発することで、基礎技術の研究にも貢献しています。

 ―自分そっくりのアンドロイドとは、どんな存在ですか。

 自分にとって双子の兄弟のような存在です。遠隔で話すと手ぶりや首の動きが連動するようにプログラミングでき、忙しい時に代わりに会議に出てもらったり、声を録音して講義をお願いしたりもできます。頭だけのものを出席させると不気味なので、全身のアンドロイドに行ってもらうようにしています。

 ―アンドロイドは今後普及していきますか。

 今は1体1千万円以上と高価ですが、量産すれば軽自動車くらいの価格には下がります。量産といっても僕の顔を100万台作っても意味がないので、個人ごとにカスタマイズしながら量産する手法を確立することが必要です。

 20年後は町でアンドロイドが歩いている時代が来るかもしれません。アンドロイドが集まり社会生活を営む共同体が生まれるかもしれませんし、家族や偉人が亡くなる前にアンドロイドによって姿や声を残すことが遺影や銅像の代わりになるかもしれません。

 ―一般の人も所有できる時代になると思いますか。

 女優の黒柳徹子さんら有名人は社会に存在が認知されているので、アンドロイドも脚光を浴び、本人がいないところに置くことで価値が生まれます。一般の人にそっくりのロボットを作ることに実用性があるかどうかは分かりません。

 ―「ロボットは人間になれる」と主張されています。

 数万年後には人間になれます。既に相づちを打ち、傾聴する姿勢を示すことができています。対話能力も今後さらに向上するでしょう。人とロボットを異なる存在として分ける必要を感じません。僕は『生身』をうたう五輪より、義手や義足を着けて力の限り競うパラリンピックに強い共感を覚えます。人間は技術と一体化して能力を発揮する動物だからです。

 ―ロボットも心を持つようになりますか。

 人に心があることは誰も証明できません。脳のどこを見ても心は見つかりません。相手の複雑な表情や動作を見て心があると互いに思い込んでいるだけではないでしょうか。僕は人間と人間が関わる時に生まれる主観的な現象が心だと思っています。ロボットが葛藤しているような複雑な動きや表情をするようになれば、人はロボットにも心があると考えるようになるかもしれません。

 ―でも、私は自分の中に心が確かに存在していると感じます。

 ロボットも全く同じことが言えます。ロボットが自分にも同じように心があると主張した場合、ロボットか人かを断定することは難しくなります。脳内に機械が入っているかもしれませんが、確かめることはできませんから。

 ―ロボットと同様、VRも著しい進化を遂げています。

 ロボットを通じて世界を見ることはVRと似ています。子どもが僕のアンドロイドを遠隔操作して大学教授の気分を味わっているように、ロボットもVRも自分と違う存在になれます。高齢になってから、若かった頃のアンドロイドを操作して『若返る』ことも可能です。

 VRゲームなど空想の世界に興じることに不安を覚える人もいますが、僕は心配していません。そこに居場所を見いだせる人が楽しめばよいのです。人間の価値観は多様です。みんなが同じスマートフォンを同じように触るといった画一的な社会がよいとは思いません。ある人はロボットを楽しみ、ある人はVRを楽しむ。また、ある人は技術から離れて田舎で暮らせればよいのです。ハリウッド映画はロボットが人類を滅ぼす分かりやすい未来を描きますが、現実はもっと複雑で多様です。技術はその多様性を担保します。

 ―ロボットが普及すると社会はどうなるのでしょうか。

 社会は便利になり、人は肉体労働や作業から解放されます。もっと人間らしい活動に時間を使えるようになるでしょう。今はご飯を食べ、生きていくために働くので精いっぱいです。人間とは何か、生きる意味は何か、を考える時間がありません。時間ができれば、このような問いに向き合う哲学者が増えるかもしれません。ロボットが増えることで、人間らしい時代になるのです。(終わり)

© 一般社団法人共同通信社