大杉漣さん最後の主演作 横須賀出身監督の「教誨師」

 死刑囚と向き合い、悔悟を促しながら教え導く牧師の姿を描いた映画「教誨(きょうかい)師」が全国で公開されている。監督と脚本を担当したのは横須賀市出身の佐向大さん(46)。教誨師を通し、「生きるとは何か」を追究し、排他主義が色濃い時代に「他者を認めることの大切さ」を説いた。牧師役を演じたのは、長年親交を深めてきた俳優・大杉漣さん。2月に急逝し、くしくも最後の主演作となった。

 主人公はプロテスタントの牧師。拘置所に足を運び、6人の死刑囚と面会する。「あなたのことを知りたい」。死を待つだけの日々を過ごす6人の言葉に粘り強く耳を傾け、聖書の言葉を伝え、徐々に心を通わせていく…。

 「人と人が真剣に向き合う姿を撮りたかった。『生きるとは何か』を追究した作品になった」。佐向さんは作品をそう総括する。

 教誨師に関心を持ったきっかけは、死刑を執行する刑務官が題材の映画「休暇」(2007年)の脚本を担当したこと。数人の教誨師から話を聞き、1年をかけて脚本を書き上げた。

 無口な男性、関西弁でまくし立てる女性、自己中心的な若者…。人となりが異なる6人と、牧師は丁寧に向き合い、安らかな死を迎えられるよう心を砕く。佐向さんは「『違う人間を排除しよう』という風潮が今の世の中にはあるが、危険」と指摘。「他者はちゃんと存在している。まずは認めることが大事との思いも込めた」と説明する。

 主演を務めた大杉さんとの出会いは、20年以上前にさかのぼる。佐向さんは当時、映画会社の新入社員。主演作の宣伝を担い、監督転身後は初の商業映画に友情出演してもらうなど親交を温めてきた。

 3年ほど前、「教誨師」の企画を持ち掛けると、出演を快諾し、プロデューサーとして資金面でも援助してくれた。撮影の合間は冗談を言って周囲を和ませているが、ひとたびカメラが回ると表情が一変した。佐向さんは「改めて、大杉漣という役者のすごさを感じた」と回顧。「俳優陣の個性を受け止め、素晴らしい演技を引き出し、魂がぶつかり合う骨太な人間ドラマにしてくれた」と感謝の言葉を口にする。

 大杉さんは公開を待たず、帰らぬ人となった。「舞台あいさつにいないのが悔しかった」と佐向さん。今は亡き名優の言葉を胸に、前を向く。

「生前、『もっと積極的にやりなよ』って言ってくれた。きっと今は『これからは一人でちゃんとやっていきなさいよ』って言ってるのかな」

大杉さん最後の主演作となった映画「教誨師」(C)「教誨師」members

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