【CH鋼線メーカー、現状と展望5】〈名北工業〉高度な品質管理体制構築 サービス向上で拡販狙う

 名北工業は、神戸製鋼所系の中部地区CH鋼線メーカー。1946年(昭21)、福西源蔵氏が建築用釘を製造する日本製釘所として名古屋市北区で創業し、翌年株式会社に改組した。その後、55年に神鋼の自転車用ギヤークランク部門を承継して「シンコーギヤー」の製造をスタート。61年にはモータリゼーションの本格化に対応して冷間圧造用鋼線の生産に乗りだすなど、神鋼との強い協力関係を通じて市場環境の変化に合わせた事業転換を重ねてきた。大手ファスナーメーカー向けを中心に、2017年度には11万2千トンのCH鋼線を量産した。

 03年に現本社、美濃加茂工場を建設。名古屋工場および1975年に新設した坂祝工場の工程を集約して、翌年一貫生産体制を構築した。同工場敷地の法面には、時おり雑草を除去するヤギが放たれ、近隣住民の目を楽しませている。

 福西康和氏は集約当時、2004年に社長に就任した。移転による社員の入れ替わりを風土改革のチャンスと判断して始めたのが、強固な企業基盤の礎となる「4S1K」活動だ。

 これは5Sの「しつけ」を「規律」に改め、挨拶や身だしなみといった基本事項から徹底的に人材レベルの引き上げを図るもの。リーマンショック発生を機に、より強い企業体質の構築を目指してTQM(総合的品質管理)活動にも着手。全社一丸となった品質向上に努めた結果、13年にTQMにおける世界最高ランクの「デミング賞」を受賞した。

 それでも「品質向上に終わりはない」と、日常管理の徹底や継続的改善の推進など地道な活動を重点項目に据え、現場力に磨きをかけ続ける。そのベースとなる人材教育には特に注力しており、月間8時間をかけて座学やOJT、QC活動を継続展開する。

 体質面とともにかねてから力を入れているのが、社員各自のユーザー対応力強化策。顧客目線に立った「困りごと解決活動」や、営業部門など専門外のスタッフでも技術提案を行う「全員技術サービス」、電話を受けた社員が案件を最後まで担当する「119対応」など幅広い取り組みを実践する。

 福西社長が「会社を良くしようと社員各自が自ら考え、積極的に行動し続けたことが今日の強靭な体制につながっている」と評価するように、長年にわたる全社一丸の活動が顧客満足度を高め、競争力につながっている。

 こうした質の高いサービスを展開して販売拡大を狙う一方、「市場の環境変化に合わせた事業展開、投資が今後の前進に向けたカギとなる」(福西社長)と慎重に先を見据える。現地生産化、車体の構造変化といった動向を捉えながら、人手不足に対応した省人化投資も検討。鍛え上げた強固な基盤を武器に、変化へ迅速に対応しながら持続的成長を目指す。(このシリーズは不定期で掲載します)(佐野 雄紀)

 会社データ

 ▽本社所在地=岐阜県美濃加茂市蜂谷台一丁目8番地1

 ▽代表者=福西康和氏

 ▽資本金=6千万円

 ▽売上高=170億円(18年5月期)

 ▽拠点=本社工場、豊田倉庫、アメリカ、中国

 ▽年間生産量=11万2千トン(18年5月期)

 ▽従業員=179人(18年5月現在)

 ▽主要品種=冷間圧造用鋼線

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