「大漢和辞典」ついに!デジタル化 「フォントない」問題克服の秘密とは

「大漢和辞典」全15巻(大修館書店提供)

 最大規模の漢和辞典として知られる「大漢和辞典」(大修館書店)のデジタル版が11月28日に発売される。1990年代以降、辞書・辞典類のデジタル化が進む一方で、収録文字数の膨大さなどから困難とみられていたなかでのアナウンスに、ネット上では「ついに!」「あと10年早ければ」と驚きの声が上がった。「東洋文化の一大宝庫」とたたえられる大漢和辞典のデジタル化。いったいどれだけすごいことなのか。(共同通信=松森好巨)

 ◇完結まで70年超

勲一等瑞宝章受章の喜びを語る諸橋轍次。この時93歳=1976年10月撮影

 大漢和辞典は全15巻に親字(見出しの漢字)5万字、熟語50万字が収録されている。全巻合計1万8千ページという大部で、一般的な漢和辞典に収録されている親字が1万字前後であるのと比べてもその規模の大きさが分かる。

 完結に至る道のりもまた壮大だ。大修館書店の依頼を受け、漢学者の諸橋轍次が編さんを始めたのは1927年。親字・熟語の収集や組版作業などを経て43年に第1巻の発行にこぎ着けたものの、45年、空襲により全巻の原版が消失してしまう。それでも、諸橋が保管していた校正刷をもとに復刊に取り組み、55年から60年にかけて初版全13巻が刊行された。

11月28日に発売される大漢和辞典デジタル版。USBメモリ1本が化粧箱に入っている(同社提供)

 その後、80年代に修訂版を、90年には「語彙索引」、2000年に「補巻」が刊行され全15巻が完結した。同社によると、刊行に携わった人数は26万人。まさに〝大事業〟だった。

 そして、11月に発売されるデジタル版。大漢和辞典に収録されている全ての親字が様々な方法で検索でき、本文内容はページビューアで表示される。本体はUSBメモリで、データをパソコンにインストールするので、オフラインでも使えるという。

 9月に発売が発表されると、ツイッターには「ついにデジタル版」「あと10年早ければ卒論に役だった」などと熱のこもったコメントが寄せられた。このように待望されていたデジタル化だが、実現には完結から18年もの間隔が空いた。

 ◇フォントがない

 90年から2000年代は電子辞書の普及が本格化し、CD―ROMやオンライン辞典などの利用も広がった。その流れのなか、大修館書店には大学の研究者たちから「ぜひ大漢和も」という要望が数多く寄せられていた。ただ、簡単には踏み出せなかったという。

 デジタル化が困難だった理由。同社販売部の山口隆志さんはその一つに「フォントがない」ことをあげる。「大漢和には5万超の親字が収録されていますが、その多くがパソコンで表示することができないのです」。こうした技術的な問題を克服するには「膨大な手間とコストがかかる」ため、製品化に向けた動きは具体化しなかった。

「大漢和辞典」に収録されている漢字の数々。見慣れない漢字ばかりだ(「補巻」から)

 山口さんによると、潮目が変わったのはここ数年のこと。大修館書店は2018年に創業100周年を迎える。節目が近づくなか、デジタル化を実現させようという機運が社内で高まっていったという。特別態勢を設け漢字のデータ入力を進める一方、製品にどのような機能を持たせるか(持たせないか)について議論を交わしていった。

 議論のなかでは、利便性を考え幅広い機能を持たせる意見も持ち上がった。ただ、完璧を求めるとコストがかさむ上に製品化が遅れる恐れがあったため、「創業100周年になんとしても完成させる」という方向性で一致。その結果、熟語の検索や検索結果の本文を「コピペ」できる機能は見送られたものの、その分、親字を早く引くための機能を充実させることに集中して取り組み、ページビューアの見やすさにも力を入れたという。

 また、懸案だった「フォント」の問題については、収録されている親字一つ一つをスキャンし画像データとして表示することで解決させた。

大漢和辞典デジタル版のイメージ画面(同社提供)

 ◇格段に早く

 では、実際の使い勝手はどうなのだろう。自身も研究者として大漢和辞典を利用していた同社編集第一部の池田菜穂子さんは、デジタル版について「格段に早くひける」と太鼓判を押す。「漢字によっては部首が分からないし、読み方も分からない。総画数で探そうとしても画数もおぼつかない…。その点、デジタル版では部首や部品、画数など複合検索ができるので目当ての漢字に早くたどり着けます」

 価格は19年3月末まで税抜き10万円(通常は同13万円)。購入者として大学の研究者や図書館などが想定されるが、同社の山口さんは「広く一般の人たちにも使ってもらいたい」と語る。

 同社は、9月9日付けの各紙朝刊にデジタル版発売を告げる全面広告を掲載。10月以降は都内の大型書店で体験会を開くなどPRに力をいれている。山口さんは「大漢和辞典は漢字や過去の文献の一大宝庫。研究としてだけでなく、多くの人に利用してもらい私たちが想像もしなかった使い方を見つけてもらえれば」と話している。

© 一般社団法人共同通信社