「解放」の知らせ

 「なるべく泣かずに待っている」と、その人の妻は2カ月ほど前に語っていた。夫にこう言われたからだという。「自分に何かあったとしても、あなたなら毎日泣いていないで、やるべきことをやってくれる」▲その妻が「解放」の報に「よく頑張ったねと伝えたい」と言った後、声を詰まらせていた。内戦の続くシリアで2015年に行方不明になったジャーナリスト安田純平さん(44)とみられる男性が解放され、きのう本人と確認された。無事と分かって、ほっとする▲拘束されていた地域は反体制派、過激派の「最後の拠点」だが、アサド政権軍に包囲されているという。いつ大きな戦闘になるとも知れず、その前に拘束を解いたとみられる▲もちろん、そうすんなりと事が動くはずはない。反体制派に影響力を持つカタール政府などに、日本政府が働き掛けを続けたとされる▲危険を覚悟しながら安田さんが自分の意志で行動し、拘束されたのは事実であり、解放のために多大な労力が払われたのも重い事実だろう。一方で、内戦の地で何が起きているのか、現場を見詰めて伝える役割もまた重い▲悲嘆の涙ではなく、喜びの涙を家族と流した後のことは、誰よりも安田さん自身がお分かりだろう。内戦とは、対立とは何か、何をもたらすか、語られるに違いない。(徹)

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