漫画「第九の波濤」の舞台 長崎大水産学部の学生奮闘 航海術の習得、食品、環境…

 長崎県諫早市出身の漫画家、草場道輝さんが週刊少年サンデー(小学館)で連載中の「第九の波濤(はとう)」は、草場さんが卒業した長崎大水産学部(長崎市)が舞台の青春漫画。厳しくも人間味あふれるキャンパスライフが描かれているが、下敷きになっているのは作者が在学した二十数年前の思い出だという。果たして今どきの様子は? 水産学部を訪ねると、アットホームな雰囲気の中で航海術の習得や、食品、環境など多様な分野で調査研究などに励む学生たちの姿があった。

 「割と漫画に近いです。学部の新歓や早朝トレは今もありますよ」

 3年の得丸奈央さんの話では、漫画で描かれる学部伝統の行事やしきたりの一部は現在も残っている。

 漫画では、怖い先輩たちが部活動の勧誘を熱く繰り広げる新入生歓迎会や、新入生全員参加のハードな体力訓練が、現代っ子の主人公の度肝を抜くエピソードとして登場。1年生が独特の作法に従い、大声で自己紹介する場面もあるが、得丸さんが所属する端艇(カッター)部では、今も同じやり方でするそうだ。

 ただ、今の新歓は普通の懇親会。早朝トレも球技などのレクリエーションが中心という。学部OBの橘勝康学部長は「昔はこんなもんじゃなかった。先輩もすごかった」と笑う。

 4年の上西園透生(とおい)さんは「他の学部に比べると教員と学生が親密」と特色を挙げる。1学年100人余りと所帯が小さいのに加え、恒例の学部祭「鴻洋祭」(5月)や乗船実習など、教員と学生が協力して一緒に取り組む機会が多いためだ。取材でも、教員と学生との会話に気の置けない雰囲気が感じられた。

 得丸さんは大分市出身。「女性が少ない職場で一旗揚げたい」と航海士を目指し、漁業や航海術を学ぶ海洋生産管理学コースに所属。3年生は2週間の乗船実習があり、春に完成した新練習船の4代目「長崎丸」で8月に船員の仕事や漁業を体験。「毎日好きな勉強をしているので、授業が楽しみ」と目を輝かせる。

 全国に国立大の水産学部は4カ所しかなく県外からの入学が多いため、長崎県内出身者は全体の1、2割程度。だが、上西園さんは長崎市出身。魚介類の毒が専門の水産食品衛生学研究室で、カニの毒に関する卒業研究を進めている。「食品関係に就職したかった」という希望通りの就職先を決めた。

 同じ研究室の4年、山口太一さん(長崎県西海市出身)は「海に囲まれて育ち、高校時代からフグ毒を研究したいと思って入学した」。食品関係も手掛ける著名企業に就職予定だ。

 熊本県天草市出身の4年、松本賢さんは底生生物を専門とする海洋ベントス生態学研究室に所属。卒業研究では、古里の干潟でマテガイの生息状況を調べている。環境アセスメント会社に就職予定で「生き物が好きで趣味みたいなもの。このまま仕事にできれば」と期待する。

 留学生も多く在籍。食品栄養学研究室で学ぶ中国人の王曜さんは、大学院博士後期課程の3年。冷凍が魚の肉質にどう影響するかを調べていて「凍らせた肉の様子を電子顕微鏡で見るのがおもしろい。このまま研究を続けたい」と専門家への道を志している。

 橘学部長は「水産業が最盛期だった頃は漁業関係の就職が多かったが、今は水産をテーマにサイエンス(科学)する学部になっていて、就職先もバラエティーに富んでいる。世界トップレベルの日本の水産をリードする学生を育てていきたい」と話す。

 ■ズーム/長崎大水産学部

 長崎青年師範学校水産科を前身として1949年5月、佐世保市に設立。61年に現在地に統合移転した。1学年の定員は110人。入学後は1年次の基礎教育を経て2、3年次に4コース(海洋生産管理学、海洋生物科学、海洋応用生物化学、海洋環境科学)から一つ選び履修。4年次は研究室に所属して卒業研究に取り組む。これまでの卒業生は約6千人。大学院は環境科学部と水産学部を母体とする水産・環境科学総合研究科。

水産に関する多様な分野に取り組む学生らと橘学部長(左から3人目)=長崎県長崎市、長崎大水産学部

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