書評:「地球の限界」から持続可能な社会の実現を

写真:Yuri Samoilov (flickr)

『小さな地球の大きな世界―プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発』(ヨハン・ロックストローム、マティアス・クルム 著 谷淳也、森秀行 ほか訳、丸善出版)

拡大する異常気象や生物の多量死など、地球環境が激変している。著者らは持続可能性に関する著名な研究者だ。人類は有限な地球の自然資産を無限に開発してきたとの反省に立ち「プラネタリ―・バウンダリー(地球の限界)」という概念を定義した。生物物理学的な科学的知見と技術革新や価値転換を組み合わせ、世界的な協働を展開すれば、「すべての人が地球上で安全で厚生な活動ができる」持続可能な社会が実現できると提案する。(松島 香織)

書名の「小さな地球の大きな世界」とは、地球の資源量よりも人間の社会的・経済的活動が大きく上回ったことを示唆している。人口の増加や工業・農業の急速な拡大が、地球を変化させる最も大きな原因となり、人間活動が火山噴火や地殻変動などよりもはるかに大きい影響力をもつという。

その認識を踏まえて、著者ら欧米の科学者を中心とした研究グループは、地球の安定性を維持するプロセスを特定し、「安定した地球で人類が安全に活動できる範囲」を科学的に定義し定量化した「プラネタリ―・バウンダリー」を提唱した。

本書はその視点から、人類の社会的・経済的発展が地球環境にどのような影響を及ぼしているかを科学的に分析して提示する。地球の資源が無限ではなく店頭の商品のように自動的に補充されることはないこと、地球環境の回復は不可逆的・突発的な変化をもたらし人類を危機にさらすこと、その変化の予測は不可能であることを明らかにしている。

人類は安全で厚生な持続可能な社会の実現のために、今何をすべきか。著者のひとりで研究グループのリーダーであるヨハン・ロックストローム氏は、プラネタリ―・バウンダリーを理解した上で社会的・経済的発展を目指すという、根本的な考え方の転換が必要だと力説する。

イケアやゼネラル・エレクトリックなどの欧米のグローバル企業のリーダー達の言葉を引用し、クリーン・エネルギーに取り組んでいることを紹介。併せて国連などの国際機関の動向にも触れ、包括的な政策手段を実践すべきだと鼓舞する。

プラネタリ―・バウンダリーは、国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」の基礎となる概念だ。科学的なデータに基づいたグラフやマティアス・クルム氏の美しい写真で、地球の現在の姿を説明する本書は、「なぜSDGsに取り組むべきなのか」を理解する一助となるだろう。

満天の星空や土埃にまみれた服を着て草むらに佇むルワンダの少年を捉えた写真は、理屈を超えて「人類のためにもこの地球を守らなければならない」と思わせる。監修した地球環境ファシリティの石井菜穂子CEOは「本の価格が高くなることは分かっていたが、美しい写真を割愛したくなかった」と話している。(※注)

「持続可能性」は制約的なものではなく、革新を促進し、創造的な経済成長を実現するものだとロックストローム氏は説く。私たち一人ひとりが、地球の限界に思いを馳せるパラダイムシフトを求められている。

※注:2018年7月18日持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム【ISAP2018】「小さな地球の大きな世界」日本語版出版記念

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