路面電車にタダ乗り!

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大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

共同通信社編集局経済部次長

大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

共同通信社編集局経済部次長

1973年東京都生まれ。97年に入社し、松山支局、本社経済部、ニューヨーク支局などを経て2016年10月から現職。運輸と旅行、国際経済の分野を長く取材し、日本一の鉄道旅行を毎年選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」の審査委員を務めている。

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(上)カナダ・カルガリーのCトレインの初代型車両「デュワグU2」、(下)「デュワグU2」の車内=いずれも18年10月

 「街中で一年中、どれだけ乗ってもタダ」という、鉄道ファンには夢のような次世代型路面電車(LRT)が走っている都市がカナダにある。1988年に冬季五輪が開かれた西部アルバータ州の大都市カルガリーで、訪れて規則通りに正々堂々と「タダ乗り」してきた。

 「Cトレイン」の愛称で親しまれているカルガリーのLRTは最初の区間が1981年5月に開業し、順次延長して現在の総延長は約60キロに上る。2017年の累計利用者数が約8800万人と、北米地域のLRTとしてメキシコで2番目の都市グアダラハラ、カナダ最大都市トロントに次いで3番目に多く、マイカーの利用に比べて環境に優しく、市民や旅行者らの移動に役立つLRTの「成功例」として脚光を浴びている。

 路線はレッドラインとブルーラインの二つが中心部と周辺の住宅街を結んでおり、朝のラッシュ時は4~7分に1本、他の時間帯もほぼ10分に1本が走っているため利便性が高い。

 両路線が合流する中心部の7番街を通る区間では、どこで乗り降りしても、何回でも無料で利用できる。カルガリー観光局「ツーリズム・カルガリー」マネージャーのリンゼー・ギャラントさんは「中心部が無料なので寒さが厳しい冬場でもビジネス客や旅行者らが移動するのに使いやすく、有効活用されている」と利点を強調する。

 そんなタダ乗りの威力を、カルガリー市街に入った翌日の朝に早くも実感した。ホテルの外に出ると10月にもかかわらず一面の銀世界で、積雪量は33センチとカルガリー市で1日として37年ぶりの多さとなった。雪で走れなくなった路線バスがレッカー車にけん引されるなど道路が混乱を極めている中で、Cトレインは雪の中も力走している。

 今年で誕生から50周年を迎えたカルガリーの象徴である塔「カルガリータワー」(高さ約191メートル)が頭上に見える中心部の停留所に着くと、道路渋滞から逃れた利用客でプラットホームはごった返していた。この区間は切符を購入する必要がないためスムーズに乗り降りしており、私も隣の停留所まで快適な乗車を楽しんだ。

 ただ、LRTと言えば中心部の区間は低速で走る一方、郊外の専用軌道では一般の通勤電車と同じように高速走行するのが持ち味だ。商品の「お試し期間」を終えて購入する顧客のように、中心部でのタダ乗りに続いて高速運転を味わえる有料区間にも足を伸ばしたくなった。1時間半乗ることができる3・30カナダドル(約280円)の切符を買い求め、ブルーラインで北東部の郊外へ向かった。

 乗り込んだのは、私が最も気に入っている初代型車両「デュワグU2」だ。ドイツの電機大手シーメンスが製造した正面に2枚窓を備えた「湘南型」の車両で、クリーム色をベースに青系のラインを入れた塗装を施している。車内は2人掛けの青い生地のクロスシート座席を左右に1列ずつ配置した簡素な設計で、レトロ感を醸し出す。

(上)カルガリー動物園の人気者、メスのジャイアントパンダ、(下)カルガリーの中央図書館の建物を通り抜けるCトレイン=いずれも18年10月

 無料区間の終端となるシティーホール(市役所)停留所でレッドラインと分岐した路線は、ボー川を渡って幹線道路沿いに進む。二つ先のズー(動物園)停留所はカルガリー動物園の前にあるため、人気者となっている計4頭のジャイアントパンダを見に行くのにも至極便利だ。

 電車の車窓からは大型商業施設や住宅街が見えてくる。広々とした住居を目にすると、米国ニューヨーク支局に駐在していた2016年までの3年間余り賃貸していたニューヨーク近郊の住宅を思い出した。「あの頃に暮らしていた家と比べて、現在住んでいる東京都内の高層マンションの1室はどんなに狭いことか」とため息をついた。

 やがて進行方向の右手にある車両基地が視界に入り、デュワグU2が並んでいる。米国西部サンフランシスコのLRTでも活躍するシーメンスの最新型車両「S200」への置き換えが進んでいるものの、多くが在籍するデュワグU2の姿を確認して「まだ頑張ってくれそうだ」と胸をなで下ろした。

 この車両基地の先にあるマクナイツ・ウエストウィンズ停留所で電車を降り、ホームから出口へ向かうために乗ってきた下り電車の線路を横切る踏切へ向かった。すると、遮断機が閉まっており、「カンカン…」という乾いた警報音が響いている。これは紛れもなく、日本では珍しくなった鐘で鳴らす「電鈴式踏切」だ。

 レトロ風の電車に揺られ、向かった先々に郷愁を誘う光景が待ち受けていたCトレイン。ただ中心部をタダ乗りするだけではもったいない、「ただ者ではない」魅力が満載だった。

 ☆大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)共同通信社編集局経済部次長。1973年生まれ。レッドラインはシティーホール停留所で分岐後、路線が今年11月1日開業の「中央図書館」の建物の下を通り抜ける珍しい光景が見られます。図書館を出入りする姿は、北米で3番目の利用客数を誇る「本物」のLRTにふさわしい!?