南海、駅全焼や関空連絡橋破損から復旧 初の計画運休、優先業務決め早期再開

台風21号による全焼直後の尾崎駅(提供:南海電気鉄道)

大阪市から関空への大動脈

南海電気鉄道は大阪市の難波から関西国際空港を特急「ラピート」により最速34分で結ぶほか、大阪府南部から和歌山県にかけての重要な交通機関となっている。9月4日に襲来した台風21号では関空連絡橋の破損に加え、尾崎駅が全焼するという思いもよらない被害も発生した。

南海では風水害などの自然災害が発生した場合の対策組織や応急処理等の基本を定めた災害対策規程を策定しているほか、鉄道や流通などの部門では防災計画を定めており、災害が発生した際には、これらに基づき対応することになっている。

難波と関空を結ぶ南海の特急「ラピート」

台風21号については早くから大型という予測がされ、近畿地方を通過することも予測されていた。鉄道営業本部に対策本部が置かれ、8月31日には最初の会議が開かれた。9月4日の午後2時に沿線エリアに最接近することがわかったほか、規模が極めて大型ということも予測されていた。これまでの台風よりも一段階警戒レベルを上げた。

さらに、4日に同社初の計画運休を行うことを3日の午前8時に決定。関西空港の運営会社や沿線自治体のほか、同じく関西空港に乗り入れているJR西日本にも通知。正午にはプレス発表を行った。計画運休についてJR西日本は近年、大雨や台風の予測があると早目の発表を行っており、南海もこれを参考に8月に実施プランを作成。この台風21号が初の実施となった。4日午前9時から徐々に運行本数を減らし、正午過ぎには完全に運転をとりやめ車両を車庫など安全なところに退避。台風の最接近に備えていた。

全焼直後の尾崎駅の内部(提供:南海電気鉄道)

1週間で尾崎駅簡易復旧

ところが、鉄道営業本部安全推進部課長補佐の河崎泰昌氏(崎の右上は立)が「想定以上の損害」と振り返る事態となる。4日午後1時10分ごろ、大阪府阪南市にある尾崎駅が火災という知らせが入ってくる。飛来物により架線が切れて配電盤に電流が逆流したことにより出火。難波にある本社は停電しなかったものの、既に沿線のほとんどのエリアで停電となっていた。通常の連絡には列車無線が使われるものの、駅員が消防に通報後、携帯電話で本社に連絡があったという。負傷者がないことの確認や消防と消火にあたったが全焼となった。

さらに夕方にはテレビを通じて関空連絡橋がタンカーの衝突により破損するという信じがたい知らせも。南海とJR西日本が走る線路も大きなダメージを受け、復旧には相当な時間がかかるとみられた。

鉄道営業本部運輸部運転保安課課長補佐の岡本広基氏は「優先順位をつけ、ピンポイントで復旧することを考えた」と説明。対策本部で最優先事項として、なんば駅~和歌山市駅までの本線の開通を決定。架線などの復旧を進めていたが、一番のネックは本線にある全焼した尾崎駅だった。難波から和歌山市まで運転することを最優先に考え、同駅を乗降可能にまで復旧することは後にし、同駅を通る4本の線路のうち、両脇の2本を止めることとした。さらに、駅長を中心に消防や警察と交渉。「消防は電車の運行時間を知りたがった」と振り返り、必要な情報を提供した。尾崎駅を通過する形で、台風被害のあった翌日の5日の午後までに本線の再開にこぎつけた。

尾崎駅はホーム横に改札とスロープを設置し、再開に至っている

尾崎駅の再開に向けては対策本部で施設管理の部署も含め検討。同駅は元々、出入口と2つのホームを跨線橋でつなぐ構造。そこで両ホームの脇に交通系ICカード専用改札機とスロープを設け、外の道路から出入りできるようにした。さらに、両ホームの行き来ができるように跨線橋の一部に通路を確保。券売機は設置できないため、交通系ICカードのない乗客には乗車駅証明書を渡し、降車駅で精算できる措置をとった。6~7日には国土交通省近畿運輸局に対し再開に向けた説明を行い、尾崎駅で乗降できるようになったのは被災から1週間後の11日の始発から。現在はスロープとホームの間に通常の改札機が置かれているが、最初は交通系ICカードのみが利用できる簡易型のものだけだったという。

りんくうタウン駅から関空へ至る連絡橋の復旧に2週間を要した

昨年の台風被害の教訓生きる

関空連絡橋は新関西国際空港株式会社(以下、新関空会社)が所有し、南海と線路を共用するJR西日本が線路部分の設備管理を行っている。南海は施設復旧を自分たちで行える立場でなく、新関空会社による復旧を待たざるをえなかった。しかし観光や産業面でのダメージを危惧した国が率先して復旧に尽力。これまでの100km/hからタンカーが衝突した箇所では35km/h以下の徐行となったが、台風から2週間後の18日に再開にこぎつけた。その間も新関空会社は輸送面で協力。7日は泉佐野駅・JR日根野駅まで、8日からはりんくうタウン駅まで新関空会社が関西空港とのバスを出すことで対応した。倒木のひどかった高野線の全線復旧は20日となった。

南海本線沿線にはブルーシートをかけた家屋が目立つ

岡本氏は台風21号への対応について、「2017年の台風21号の被災経験が生きた」と振り返る。2017年の台風21号では樽井駅~尾崎駅間にある男里川の橋梁の橋脚が傾き、線路がゆがむ被害があった。自然災害による被害経験が、事前の準備やすみやかな復旧など今回の対応に生かされたという。

台風24号が近畿地方に接近した9月30日にも南海は再び計画運休を実施。この際は21号の反省もあり、なんば駅を中心に外国人向けも含め運休の告知を強化。滑走路の閉鎖情報も合わせて知らせ、関西空港に向かわないように呼びかけた。翌日始発の再開もスムーズに行えたという。南海では今年の台風被害からさらに安全対策を進めていく。

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介

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