三重の町工場、退職者ゼロの理由

 再建に挑む息子の取り組み 「継ぐということ」(1)

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父の後を継いだ金属加工会社「セイワ工業」専務の野見山勇大さん=三重県木曽岬町(

 「後を継ぐことはメリットが多い。悩んでいるんだったら、チャレンジしたほうがいい」。三重県木曽岬町の金属加工会社「セイワ工業」専務の野見山勇大(のみやま・ゆうた)さん(26)はこう言い切る。2015年春、2代目として会社の経営を引き継いだ時も迷いはなかった。

 会社は1993年に父が創業し、高速道路の標識を取り付ける柱を専門に製造していた。子どもの頃から、父の仕事には全く興味が湧かなかった。工場を訪れたことも、夜食を作りに行く母に連れられていった数回程度で、記憶もほとんどない。

 長男だったが後を継ぐという考えは一切頭になく、会社とは畑違いの愛知県内にある大学の外国語学部で英語を専攻。商社への就職や、IT業界で起業したいといくつもの思いを描いていた。

会社を再建する魅力にとらわれ

 その「未来予想図」が一変したのは、大学4年の時。就職活動で複数企業から内定をもらい「今のうちに親孝行しよう」という軽い気持ちで始めた会社でのアルバイトが、後継者への道を開かせた。

 担当の社員がちょうど退職した後で、任されたのは経理事務。知識も経験もなかったが独学で覚えると、資金繰りが思わしくないことに気付いた。それでも「父の会社をつぶしてはいけない、なんてことは1ミリも思わなかった」

 だが、「よその会社にはない『社員の若さ』という強み」があることも目に留まった。「この業界で勝ち残れるはず」。強みを生かし、経営者として会社を再建したいという魅力にとらわれた。

 両親に後を継ぎたいと告げた。息子には苦労させたくないと猛反対されたが、内定を断って大学卒業後すぐに入社した。

工場で社員とコミュニケーションを取る野見山さん
退職者はゼロ

 金属の溶接を行う同業他社は社員の高齢化が進み、若手が入らずにつぶれることも多い。会社が存続すれば、いずれ取引先からの受注が増える。平均年齢20代後半という社員の若さは、後継ぎとしての自信となった。

 一方で、給料の低さや休みの少なさなどを理由に若手の離職率が高いことがネックだった。「若い人が働いていける環境を整えないと、会社は生き残れない。世界一働きやすい町工場にしよう」

 すぐさま父を説得して役員報酬を削減、自分の給料も社員以下に抑え、社員の給料を上げるための原資を確保。さらに回せる仕事は外注に出す工夫で、休みを確保したり、残業時間を減らしたりした。入社後、退職者はまだゼロだ。

工場で製品を確認する野見山さん

廃業する町工場、後継ぎとして買い取りたい

 先代が作った借金を背負うといったデメリット以上に「初期投資がいらず、固定客が既にいる」などメリットの多さを挙げる。

 短い納期の仕事を受け、外注費用が大幅に上がって損失を出す経験もしたが、「失敗の理由を考え、次の成功につなげればいい」。試行錯誤を日々積み重ね、会社は昨年、過去最高利益を上げるまでに成長した。

 しかし、全国的には後継者のいない町工場の方が多い。そんな会社を一つでも存続させたいと、経営や後継者に悩む町工場へ、自身の経験も踏まえたコンサルティングを始めた。現在の顧客は3、4社だが、少しずつ拡大していきたいと考えている。

 「必要な会社がなくなるのは社会全体にとっても損失」。次は廃業を選択せざるを得ない町工場を買い取り、後継ぎとして社会に必要な会社を長く存続させていければと夢を膨らませている。

 時代とともに世の中は変わっていく。新たな業種が生まれる一方で、廃れゆく仕事もある。共同通信の若者向け企画「U30のコンパス+」第4部は「継ぐ」がテーマ。さまざまなジャンルで仕事をつなごうと奮闘する姿を紹介する。

中小企業だからこその良さ、必ずある ~取材を終えて~

 普段の取材で中小企業を訪ねると「子どもが後を継いでくれなくて…」「経営が大変だから、子どもには後を継がせたくない」と言う経営者に会うことが多い。全国的にも同じ傾向で、これが続けば将来的に雇用や国内総生産(GDP)が大幅に失われる可能性があり、政府などが対策に乗り出している。

 今回私が取材した野見山勇大さんは「中小企業だからこその良さが必ずある。そういう会社を1社でも多く残したい」と話す。大企業に敵わなくとも、高品質やオリジナリティーのある製品を提供できる中小企業。そんな会社の後継ぎが少しでも増えるようにするにはどんな方法があるか、今後も取材を続けながら、考えていきたいと感じた。(共同通信・津支局=大沼祐輔31歳)

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