「母親の学歴は子の学力に影響する」説は本当? 「勉強嫌いで短大卒」の母を持つ中学受験生は今

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“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 今夏、文部科学省が発表したデータは、教育関係者に同意と衝撃を同時にもたらした。

「子どもの学力は母親の学歴と比例する」

 毎年4月に、国が実施している「全国学力・学習状況調査」(通称「全国学力テスト」・小学6年と中学3年の全員が対象)。2017年にはこれに付随して「保護者アンケート」を取ったのだが、この結果を文科省が夏に発表したのだ。

 調査結果は、「親の収入や学歴が高いほど児童・生徒の学力が高い」といった傾向を示し、しかも、それは父親よりも母親の学歴の方に、より影響を受けるというものだった。

 実はこれ、今まで、教育関係者の間で都市伝説的に語られてきたことなのである。それが“事実”だったという“裏付け”になったため、「やっぱりね……」という感想を持つ先生方は多かったようだ。

 識者たちは「日本はまだまだ母親主導の子育てなので、子どもへの影響力は父親よりも母親にあるのだろう」というようなコメントを寄せている。つまり「学力偏差値が高い母親の子どもは偏差値が高い」ということである。

 では、その傾向は、「中学受験界にも当てはまるのか?」ということについて語ってみよう。

 中学受験は、“親子の受験”であるために、自宅学習に関しても、親子で頑張る人たちはたくさんいる。やはり母親の学歴が高いと、子どもが難問に苦戦している時、即座にヒントを出せる確率が高くなるだろうし、何より、子どものあらゆる疑問に間髪いれずに答えてあげられるということが強みであると思う。

 子どもが「なんで、こうなるの?」「これは何?」と言った時に「うるさいわね、自分で調べなさいよ!」と言ってしまう母と、「良いところに気が付いたわね」と上質なヒントを与えられる母……その暮らしの積み重ねを比較すれば、答えは一目瞭然であろう。

 人間には「疑問点はなるべく早くに解決したい」という欲求がある。自力で解決できればいいが、子どもはそれがなかなか難しいので、親がフォローの役回りを担うわけだ。この「解決したい!」という欲求を封じられ続けた子は、その持って生まれた“知的好奇心”を自主的に永久に封じ込めてしまうのである。

 そう考えると、やはり母親の学歴と子どもの偏差値は比例すると考えられるが、長年、中学受験界をウォッチングしている筆者の立場から言うならば、完全には「母の学歴=子どもの偏差値」ではないと思っている。もちろん、結果として母の学歴がリンクすることはあるにせよ、要は母自らの“知的好奇心”の有無が関係していると言えよう。

 シングルマザーである安代さんも、そのケースに当たる。彼女は高校時代に、父親が事業で失敗してしまったために、やむなく中高一貫校を中退。大学進学を諦め、働き出したという。20歳そこそこで結婚・出産をしたものの、夫とは性格の不一致で離婚。そこから、一人息子の蒼汰君を1人で懸命に育ててきたそうだ。

 そんな安代さんは、蒼汰君を中高一貫校に入れるべく、奮闘し始める。筆者の「自分の成し遂げられなかった夢のリベンジという意味合いもあったのか?」という意地の悪い問いかけに、彼女は笑いながら、こう答えた。

「確かに、それがまったくないわけではないです(笑)。でも、それより、蒼汰には良質な環境の中で、いろんな『これは、何だろう?』に出会い、考えることを大事にしてほしかったんです」

 蒼汰君は現在、超難関の中高一貫校の高校生だが、母である安代さんに対して、どう思っているのだろうか。

「母は、『いつ寝てるんだろう?』って思う暮らしをずっと続けています。僕の中学受験時代は、母も僕が勉強している横でずっと勉強していたんですよ。『蒼汰が合格を目指して頑張っているんだから、ママは公認会計士になる!』って言って、真剣にやってましたね。働いて、家事もして、それで僕の面倒もみての中ですからね……」

 筆者の心に響いたのは蒼汰君のこの言葉だ。

「母の言葉で印象に残っているものですか? 『蒼汰、勉強できるって贅沢で、楽しいものね』です」

 これは、大学進学を諦めざるを得なかった安代さんだからこその言葉だろう。公認会計士はさすがに難関試験なので、安代さんは現在、夜間の専門学校に通って猛勉強中。蒼汰君は医師を目指して受験勉強中とのことなので、親子の机を並べた自宅学習はまだ継続中とのことだ。

 もう1人、別の事例をご紹介しよう。栄子さんの最終学歴は短大。「女に学歴は要らない」という父親を、母親が「せめて短大だけでも」と説得して行かせてもらった経緯があるそうだ。

 栄子さんはニコニコ笑いながら、「それを言うと、頭が良い子だったのに、四大に行かせてもらえなかった娘のように思うかもしれませんが、全然です。勉強、好きじゃなかったんで……(笑)」と話すが、ただ、栄子さんは少女時代から本が大好きで、あらゆるジャンルの本を乱読してきたそうだ。結婚後に住まいを決める時も「大きな公営図書館が近くにあること」が条件になったという。

 結果、本がたくさんある環境の中で育った娘の琴美ちゃんも、幼い頃から本が好きで、本を与えておけば、夢中になって読んでいる子だったそうだ。

 栄子さんはこう証言する。

「小さな頃の琴美は、草花の図鑑が特にお気に入りで、2人で実際に図鑑を持ちながら、“探検隊”を結成し、自宅周辺の野山を観察して歩きましたね。懐かしい、良い思い出です」

 現在、琴美ちゃんは優秀なリケジョを輩出することで有名な、ある女子校の中学生に成長。将来の夢は「植物学者か獣医」なのだそうだ。

 このように、必ずしも「学歴が高い母に育てられなくては、学力が高い子にはなれない」ということではない。ただし、よく言われる「子は親の背中を見て育つ」という言葉に通ずるように、筆者が「この子は本当の意味で賢いな」と思える生徒さんの背景には、必ず賢い母親がいるように感じている。

 それを強引に一言でまとめるならば、こういうことだと思う。

「学びの面白さを知っている母の子は伸びる」

 勉強は大人になってからでも遅くはない。今日からでも、学ぶことの面白さを知るチャンスはたくさんある。学歴うんぬんではなく、まずは母自身が何かにトライしてみることが、結果として、子どもの“やる気スイッチ”を押す、一助になるかもしれない。
(鳥居りんこ)