読書の季節

 表現巧みというのか、編者の思いが深いというのか、新明解国語辞典(三省堂)の語義の説明には味がある。例えば「読書」という単語はこう説明される。〈一時(いっとき)現実を離れ、精神を未知の世界に遊ばせたり、人生観を確固不動のものたらしめたりするために、本を読むこと〉▲不動の人生観は得にくいものだが、不思議な異空間に遊ぶような、心の養分をもらったような、そんな読後感を本に抱いた人は数知れずいるだろう▲読書週間(11月9日まで)の間、しばし現実を離れたり、未知の世界に浸ったりするのもきっと楽しい-はずなのだが、昨今はそちらへ気が向きにくいらしい。本を「月に1冊も読まない」「月に1冊」という人は、ともに3割ほどという調査結果がある▲「スマートフォンやゲームなどに費やす時間が増えた」ためらしい。9割の人が「読書は必要」と感じているにもかかわらず▲読書が大切とは思うが、なにしろスマホを触るのに忙しくて…ということだろう。読書の定義を「人生観を確固不動のもの」にするため-とした辞典の編者の意に沿うはずはない▲思えばスマホの世界も、しばし現実を離れ、異空間に浸る点では読書に通じるのかもしれないが、灯火親しむべき候、ふさわしいのは時として「一生の出会い」ももたらす一冊の本だろう。(徹)

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