【工場ルポ】〈ゲスタンプ・ホットスタンピング・ジャパン松阪工場〉熱間プレス加工で新風 使用鋼種に大きな変化も

 熱間プレス加工を駆使した世界屈指の自動車部品メーカー・ゲスタンプは、日本初の生産拠点である松阪工場(三重県松阪市、ゲスタンプ・ホットスタンピング・ジャパン)が本稼働した。25日には現地でオープニングセレモニーを開催。本田技研工業やトヨタ自動車の開発者なども出席した。世界最先端の加工技術は日本の自動車産業をどのように変えていくのか。本稼働した新工場をルポする。

 近鉄伊勢中川駅から車で約10分。伊勢自動車道の一志嬉野インターからも至近な場所に、松阪工場はある。付近には自動車組み立て工場などはないが、同社によると「西日本から東日本までのどこへも行ける好立地」(大室敦司ゲスタンプ・ホットスタンピング・ジャパン副社長)という。グローバルで展開する部品メーカーならではの判断。自社の技術と競争力の高さを印象付けているようでもある。

 ゲスタンプ・オートモシオンは、世界22カ国で事業を展開しており、108の生産拠点を持ち、近隣では中国、韓国にも拠点がある。OEMを対象にした自動車部品および金属アセンブリーの設計・開発・製造・販売を手掛ける。

 日本初の生産拠点は、5万9千平方メートルの敷地(三重県松阪市嬉野天花寺町)に新工場(7500平方メートル)と事務所棟(1300平方メートル)を新築し、ホットスタンプ加工ライン(1ライン)、レーザ加工ライン(4基)、品質検査室などを新設。

 昨年7月に建設工事を開始。今年3月に工場建設が完成し、その後加工ラインの据付工事を行って生産活動が始まった。現場スタッフ40人体制でスタート。年末までに60人体制とする予定。

 国内の自動車メーカー向けにシャーシやホワイトボディー向けの部品を供給し、需要が増えてくれば、加工ラインを増設する計画。工場内に増設余地は十分にある。

 工程は、まず加工するための母材をロボットアームで加熱炉(ガス炉)に送る。ライン長約40メートルの炉を抜け、母材は900度の熱さに。出てきた母材をすぐにロボットアームがつかみ、熱いままプレス加工。サーボプレスで5~7秒程度、金型は水冷クーリングシステムにより、素材はその間に200度まで冷却し、強度は約3倍になる。

 次工程は、ファイバーレーザによる端部の成形および穴あけ加工。レーザ機による加工は1部品当たり35秒程度と素早い。硬度、寸法形状などの品質検査を経て出荷する。

 熱間プレス加工に関するゲスタンプの技術は、他社を凌駕している。その一つが、加熱した鋼材の部分ごとに冷却時間を変え、同一部材内の強度に強弱を持たせる技術。日本国内では、異鋼種接合(TWB)という加工技術も普及しているが、ゲスタンプのこの技術を使えば、ものづくりに変化が生じる可能性もある。

 また、超ハイテン鋼などを使わず高強度が出せる加工法のため、自動車の使用鋼種も変化する可能性がある。国内の部品メーカーでも熱間プレス加工ラインを新設・稼働しており、現実にアルミめっき鋼板などの流通量も増えてきている。

 日本の自動車産業はこれまで、基本的に自動車メーカーと部品メーカーが国内でともに技術を磨き、グローバル展開するという図式でやってきた。今回の同社の日本進出は、その流れが逆になり、海外のグローバル企業が日本の自動車産業に新たな息吹を吹き込むという点が新しい。

 IoTやAIの発展により、近未来の製造業には大きな変化も予想される。よりインテグレートされたものづくりが進もうとする中、同社の存在はどう位置付けられていくのか。興味は尽きない。(片岡 徹)

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