世界をアッと驚かせたアンドレス・イニエスタの加入発表から5ヵ月。ヴィッセル神戸が産みの苦しみを味わっている。
最高で4位に浮上するなど、好調を維持していた中盤戦のムードが変わったのは、24節の横浜F・マリノス戦からだ。この試合を0-2で落とすと、続く北海道コンサドーレ札幌戦でも1-3と黒星を献上。以降の5試合でも1分4敗と勝利から見放され、5位から12位まで順位を落とし、残留争いに巻き込まれた。
今回の当コラムでは、シーズン途中の大型補強、そして監督交代と激動の1年を過ごしている神戸に着眼し、チームの問題点や今後の方策について述べていきたい。
■新機軸はダイヤモンド型の…
吉田孝行監督の解任を受け、29節のV・ファーレン長崎戦から指揮を執るフアン・マヌエル・リージョ新監督は、早速新機軸を導入。イニエスタ加入後の基本形だった4-3-3からルーカス・ポドルスキをトップ下に置いた4-3-1-2へマイナーチェンジを施した。
中盤と前線の顔ぶれがほぼ固定されている一方、失点がかさんでいる最終ラインは人選が定まっていない。経験豊富な那須大亮と伊野波雅彦が起用されているところを見るに、ベテランの影響力を作用させたい意図が読み取れるだろう。
■まさに“激動”だった今シーズン
バルセロナを手本としたポゼッションスタイルへ舵を切った今季の神戸。このタイミングでここまでを振り返ると、様々なトピックがあった。
新キャプテンに就任したポドルスキを中心に据えたパスサッカーで今季をスタートさせ、その背番号10が負傷離脱した後は、ウェリントンと渡邉千真(現・ガンバ大阪)の強力2トップが躍動。
2-0と快勝を収めた14節のジュビロ磐田戦では、敵将の名波浩監督が絶賛したほどだった。その後17節の湘南ベルマーレ戦でイニエスタがデビューすれば、稀代のクラックに合わせた4-3-3へシフトチェンジした。
3連敗となった26節のG大阪戦後にリージョ新体制への移行がアナウンスされ、52歳の知将は29節の長崎戦から正式に指揮を執り始める。
イニエスタの加入、そしてリージョの招聘と大きな化学変化が起こる事象が2つもシーズン中に行われたのだから、ある意味チームが調子を落とすのは当然の帰結なのだ。
■今後取り入れるべき“方策”
30節終了現在で7試合未勝利(1分6敗)と負のスパイラルに陥った神戸。攻守に課題が山積されており、早急に改善が必要となっている。
まずは、その7試合で22失点を喫している守備陣だ。ただ、単純に最終ラインのパフォーマンス不足にその原因を求めるのは酷だろう。
なぜなら、トンネルに入る前つまり23節を終えた時点では24失点という成績であり、失点の少なさはリーグでも上から5番目の数字だった(補足:30節終了時点では46失点で、下から5番目の数字)。
現在の問題点は、攻守のバランスが著しく悪いところにある。
特にポドルスキを頂点にイニエスタ、三田啓貴、藤田直之が形成する中盤のダイヤモンドは明らかに比重が攻撃に偏っている。いわゆる守備的MFの適性があるのがアンカーの藤田のみで、守備時における藤田への負担がかなり多くなっているのだ。
リージョ体制が発足してからは、ポドルスキも献身的に守備をするようになったとはいえ、ディフェンスの強度は絶対的に不足している。
アンカー経験のある伊野波や大﨑玲央を一列前で起用するのに加え、ダブルボランチを採用する策も考えられる。これらは指揮官の理想とかけ離れるかもしれないが、あくまでも「J1残留を果たすため」の短期的なプランとして導入すべきだろう。
一方の攻撃に目を向けると、高さのあるウェリントンが持ち味を発揮できなくなっているのが気がかりだ。
前述の通り、渡邉とのコンビで存在感を見せたブラジリアンも、16節の長崎戦で今季5点目を決めて以来、ノーゴールと苦しんでいる。
ウェリントンがゴールを奪えなくなったのは、イニエスタの加入と無関係ではない。
今なお世界有数のプレーメーカーである背番号8へボールが集まり、またポゼッションへの意識がより強くなったチームは、以前よりもグラウンダーのパスをつなぐシーンが増えた。
屈強なフィジカルを誇り、リーグ屈指のエアバトラーであるウェリントンにクロスが供給されるシーンが減り、それに伴いゴールからも遠ざかったのである。
グラウンダーのパス交換で局面を打開するのが指揮官の理想だろうが、それでは“宝の持ち腐れ”となってしまう。現陣容には正確な左足を武器とするティーラトンもいるだけに、クロスを効果的に使った攻めも増やしたいところ。そうすれば、同じく高さが売りの長沢駿も能力を発揮できるはずだ。
来シーズン以降につなげるためにも、残り4試合となったリーグ戦での最大目標は「J1残留」となる。
17位・柏レイソルとの勝点差は4と決して楽観視できる状況にはない。本格的な戦術的工事は来季へ持ち越し、今は残留へ向けた方策に最優先で取り組む。それこそが、今の神戸に求められる最善の一手だと言えるだろう。
2018/10/27 written by ロッシ