【気象コラム】「雪虫」とはいったい何者か

「雪虫」の仲間

 今ごろになると北日本で見られるようになる「雪虫」について書きたいと思う。「雪虫」ひらがなにすると「ゆきむし」なんとなくロマンあふれる名前ではないか。北日本でこの季節を過ごしたことがある方ならわかってくれるであろう、晩秋になると「ふわふわ」とゆっくり飛んでくる小さな「綿」のようなもの。それが「雪虫」である。よく「雪の妖精」だとか「初雪の使者」だとか言われる。はたしてその「雪虫」とは皆にとってなんであろうか。

  私も北日本でこの季節を送ったことがある。北の地で大学生だった30年近く前、11月初めの学園祭シーズン、その頃には津軽のシンボル「岩木山」は「しま模様」になるころ(頂上付近は積雪となり「白色」、中腹は紅葉の「茶色」)。学園祭で盛り上がっているところで見かける「雪虫」。この「雪虫」が舞うと、地元の人は平野部でもあと1週間で雪だなあと嘆き始める。長い冬に入るのだという暗たんたる思いを味あわせてくれる季節の風物詩。

 

 北海道出身の方に思い出を伺った。札幌市出身、東京都練馬区在住の知人男性。高校生だった30年以上前、雪虫が現れるのは当時10月10日が「体育の日」だった前後。朝晩は冷え込み、自転車通学がだんだんつらくなる。朝方、自転車に乗って高校まで約6キロの道のりを漕いでいると、ふと顔に何か小さなものが当たる。「もう今年もこんな季節か」と思ったそうだ。

 帯広在住の知人女性は、雪虫を見かけると寒くなる前触れ、あー…また冬が来るなぁと少々憂鬱(ゆううつ)な季節の便り。今年は気温が高いからかまだ10月下旬現在まだ見ていないとのこと。

  ロマンあふれる名前だが正式には「アブラムシ」の仲間。あたかも白い綿のように見える糸状の白いろう物質を分泌する腺があるアブラムシの通称。代表的な種としては「トドノネオオワタムシ」がある。秋の終わりに産卵するために大量発生し、寿命は1週間ほど。ちょうどその時期が、雪が降る時期と重なるため、「雪虫を見るとまもなく雪の季節か」と思わせる。

  「雪虫」は北海道などの冬寒い地域だけで見られるものではない。その生息範囲は、北海道~本州・四国の広いエリア。東京でも普通に見ることができる。ただし、西の地域では「雪虫」を見かけてもすぐに初雪にはならないためか、同じ虫を「綿虫」とか「しろばんば」などと呼ばれている。

  「雪虫」は白い綿のように見える糸状の白いろう物質に包まれ飛んでくるが、この物質、触ってみるとわかるのだが、意外とべたべたしているので服に付きやすい。そーっと取らないと服にくっついてしまい、これが厄介なのである。

  北海道・東北だけではなく本州・四国などでも見ることができる「雪虫」。今冬はどのような寒さになるか想いを馳せながら、ふわふわ飛んでいる姿を見つめてみるのもいいだろう。ただし服についたりしないよう気を付けながら。

 (気象予報士・高森泰人)

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