薬局店頭でおなじみ「サトちゃん」生みの親 土方重巳の世界展

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「サトちゃん」(1960年ごろ) 

 NHKの人形劇「ブーフーウー」や佐藤製薬のかわいい子ゾウ「サトちゃん」など、昭和の人気キャラクターを次々と生み出したグラフィック・デザイナー土方重巳(ひじかたしげみ)。その多彩な仕事を振り返る「土方重巳の世界」(神戸新聞社主催)が、兵庫県西宮市中浜町の西宮市大谷記念美術館で開かれている。時代を超えて愛される作品やレトロな映画ポスターは、“あの時代”を知る人の心を懐かしさで満たしてくれる。(浅野真由美)

 土方は1915(大正4)年、神戸市東灘区で生まれた。多摩帝国美術学校(現多摩美術大学)を卒業後、東宝に入社。数々の名映画のポスターを手がけた後に退社。フリーになってからはバレエ、人形劇などの舞台芸術のデザインを創作するなど、活動幅を広げていった。絵本やテレビ番組など子ども向けの仕事、企業デザインにも取り組んだ。

 今回は映画ポスターや絵本原画など約540点を展示。会場を時代や内容ごとに三つに分け、時代変遷も感じられるよう構成した。 ◇映画ポスター

 第1章「東宝からフリーのデザイナーへ」では、戦前の東宝映画を代表する「馬」や、「大いなる幻影」「石の花」などのポスターが並ぶ。原節子ら往年のスターを描いた画面、装飾的なロゴは昭和レトロという言葉がぴったりだ。

 珍しいのは「文化映画」ポスター。39(昭和14)年施行の「映画法」で、「劇映画」を上映する際は教養を深める「文化映画」の同時上映を義務づけられることになった。サイズや色数の制約がある「文化映画」ポスターの制作だが、土方には逆に魅力を感じたようだ。「少年飛行兵」「小林一茶」などの原画は赤を強調した配色、人物を大きく描く構図などが目を引き、戦前や戦中の世相が伝わるようで興味深い。

 第2章「飯沢匡(ただす)との名コンビによる、子どもに向けた仕事」では、かわいい絵本や挿絵などを紹介する。「きれいできちんとしたものを子どもの心に植え付けたい」という劇作家で作家の飯沢の思いに賛同し、土方は精力的に取り組んだ。初の童画「森の大さわぎ」を皮切りに、飯沢の文章に童画を描き「婦人朝日」や「婦人公論」で発表。「シンデレラ」などの人形絵本も生み出した。

 「ブーフーウー」は56(昭和31)年の「婦人公論」の連載作品。60(同35)年にNHKテレビ「おかあさんといっしょ」の人形劇コーナーに登場して人気を博す。人形のかわいい姿や、3匹のブタたちが食事をする挿絵を見て、夢中になった子どものころを思い出す人も多いだろう。同館学芸員の下村朝香さんは「子ども向けの質の高い絵本や番組が少ない時代、大人も子どもも楽しめる作品が人々の心をつかんだのだと思います」と解説する。 ◇癒やし系

 第3章は「企業キャラクター、人形アニメーションCMの開拓者として」。アサヒビールの「ほろにが君」や花王の「月のマーク」などユーモラスな作品は、現在のキャラクターにつながる先駆け的作品だ。薬局の店頭に置かれたオレンジ色のゾウ「サトちゃん」は、佐藤製薬のシンボルとして今も愛される。最近のゆるキャラにも負けない癒やし系といえる。50年代の精工舎(セイコー)のCM集も放映されている。

 「土方の仕事はこれまで紹介されることがほとんどありませんでしたが、貴重なものがたくさん残っています。会場を歩いて昭和時代に入り込んでもらえれば、若い人も新鮮に感じるはず」と下村さん。

 12月9日まで。水曜休館。一般800円、高校・大学生600円、小・中学生400円。阪神電車「香櫨園」駅徒歩6分。同美術館TEL0798・33・0164