「ペットがいなくなった!」に駆けつける 猫逃がした記者、探偵に会ってきた

By 関かおり

迷い猫の捜索の様子(ジャパンロストペットレスキュー提供)

 10月半ばの早朝、記者の実家の飼い猫が脱走した。それきり行方をくらまし、夜になっても戻ってこない。臆病な性格のあの猫は、きっとどこかで空腹と寒さに震えているのだろう。早く見つけてあげたい、かといって仕事をサボって1日中探すわけにもいかない…。意を決し、ネットで見つけた「ペット探偵」に電話をかけて捜索を依頼した。探偵はヒアリングの後、こう言った。

帰ってきた飼い猫

「窓を開けて、待ってみてください。今は猫ちゃんも本気モードで隠れているので、出てきづらい時期です。近くでこっそり家に入る機会をうかがっていて、捜索が始まる前に自力で帰ってくるかもしれません」

 探偵の予言は当たった。失踪から3日後の未明、猫は気まずそうな様子でこっそり帰ってきた。すごい、さすがペット探偵だ! …でも、そういえばペット探偵って何者? 依頼をキャンセルした後に改めて取材を申し込み、正体を確かめに行ってきた。 (共同通信=関かおり)

「ペット界のJAF」

 空前のペットブームや、SNSでのペット写真の拡散などの影響から、ペット探偵に寄せられる相談も急増している。

 逃げたペットの捜索を請け負う「ジャパンロストペットレスキュー」(東京都小平市)には多いときには1日20件、平常時でも5~10件依頼がある。24時間電話を受け付け、全国どこにでも駆けつける。特に依頼が多いのは犬や猫の捜索だが、そのほかにも様々な「迷子」の相談を受けてきた。たとえばどんなですか? 代表の遠藤匡王さん(42)は「鳥さんが多いです」と言った後に指折り数えた。「あとはフェレット、ウサギ、ハムスター、ヘビ、カメ、フクロモモンガ…。日本でペットとして飼われている品種であれば今まで断ったことはありませんね。生態も把握しています。あ、でももし猛獣の依頼が来たら断ります」

情報提供の電話に対応する遠藤匡王さん

 遠藤さんは元々動物好き。「ムツゴロウさん」として知られる畑正憲さんに憧れ、ドリトル先生シリーズを愛読して育った。動物園の飼育員になることを夢見ていたが「そう簡単にはなれない」と諦めた矢先、テレビでペット探偵の姿を見た。すぐに連絡をして弟子入り。以来約20年にわたって現場に関わってきた。

 捕獲器や、動くものに反応する動体検知カメラ、暗所・閉所に差し込んで使うファイバースコープなどの道具を駆使して、側溝の中も車の下もくまなく探す。ペットの写真や特徴を印刷したチラシを配ったり、ポスターを貼ったりして近所の住民から情報を集めることも欠かせない。

側溝の中を捜索する様子(ジャパンロストペットレスキュー提供)

 依頼や情報提供で鳴り続ける電話に対応しつつ、猫なら1日20~30キロ、犬ならもっと長い距離を8時間歩き続ける。品種や目撃情報に合わせて捜索時間帯も変えるので生活は不規則だ。特に猫は深夜から未明の時間帯に探すことが多い。

 ただ、チラシを配り、聞き込みをする相手は人間だ。「対動物の仕事と思われがちですが、実際、迷子になっているのだから、動物はいない状態。仕事中に関わるのはほとんど人間です」。最近ではスタッフの応募も増えているが、動物好きでなければとてもつとまらない激務である一方で、対人間の仕事もこなせなければならない。

 さらに、同社には「ペットが屋根に上って降りられなくなってしまった」など捜索に関係ない問い合わせも寄せられる。こうした電話は年々増加傾向にあり、今後はこれまで蓄積したノウハウを生かして動物の「困った」をなんでも受け付け、どこにでも駆けつける「ペット界のJAF」を目指すという。

悪徳業者にご注意

 飼い主にも注意が必要だ。ペット探偵の繁忙期は8~9月。風を通すために窓を開けている間に出て行ってしまったり、落雷や花火に驚いて逃げたり、脱走の機会は夏場に特に多い。遠藤さんによると、ペットホテルや動物病院から「預かっているペットを逃がしてしまった」と泣きつかれるケースもあるといい、預ける際には管理体制を見極めることも大切だ。

 また、かわいがっていたペットがいなくなって悲しむ人の弱みにつけこみ、ろくに捜索もしないで高額な代金を請求する悪徳業者も存在する。ホームページが立派だったので、猫の失踪中に記者もうっかり信用して電話をかけた。事前のヒアリングもないまま「すぐにお金を振り込んでください」と迫られて不審に思い、依頼を取り下げたが、冷静になってよく見たら、ホームページは所々がでたらめだった。

 現状では、ペット探偵には資格がなく、ルールも存在しない。遠藤さんは今後、悪質な業者を減らすために協会を設立し、基準を作って優良業者を認定したいという。

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