[水沼貴史の欧蹴爛漫018]序盤戦出遅れのバイエルン 波に乗れない要因は?

暗中模索な采配が続いているコバチ監督 photo/Getty Images
配球力に長けるT・アルカンタラだが...... photo/Getty Images
大ベテランの域に差し掛かったロッベンとリベリ photo/Getty Images

水沼貴史です。序盤戦で不振に陥った欧州の強豪クラブがいくつかありますが、レアル・マドリードはバルセロナ戦での大敗を受け、ついにフレン・ロペテギ監督を解任しました。タイトル獲得を義務付けられているビッグクラブならではの厳しい決断に、私自身驚かされました。

今回は状態を不安視されている強豪クラブの中から、バイエルン・ミュンヘンの現状について解説します。

ブンデスリーガ第5節(アウクスブルク戦)からの公式戦4試合で勝利を逃すなど、今季のバイエルンは圧倒的な強さを誇示しているとは言えません。直近の公式戦では4連勝と持ち直した感も窺えますが、未だに攻守両面で危うさを見せています。今夏にニコ・コバチ新監督を迎えたバイエルンで、一体何が起きているのでしょうか。

リーグ戦9試合を終えた段階で無失点試合が2つしかないという事から、守備に問題があると言わざるを得ません。コバチ監督は[4-1-4-1]、もしくは中盤逆三角形の[4-3-3]の布陣を主に使っていますが、アンカーにチアゴ・アルカンタラを置いた試合で守備が乱れているように見受けられます。中盤の底から正確なロングパスを放って局面を打開するなど、攻撃面での貢献度は高いチアゴですが、相手ボールとなった際に彼が球際で強さを発揮できず、自陣バイタルエリアを切り崩される場面が少なくありません。今季、ハビ・マルティネスがアンカーで起用された試合で負けていないという事を踏まえても、フィジカルコンタクトに定評がある彼を中盤の底に置くのが得策だと私は思いますが、コバチ監督の考えはどうか。指揮官が現状をどのように分析しているのかが気になるところです。

過密日程を考慮し、大胆なローテーションを採用しているコバチ監督ですが、大ベテランのアリエン・ロッベンとフランク・リベリを温存した際に、サイド攻撃の威力が落ちてしまうという難点があります。コバチ監督は彼らの代わりとしてセルジュ・ニャブリを重宝していますが、独力突破が得意な一方で球離れが悪く、サイドバックの追い越しを活かせない場面が多々あります。

キングスレイ・コマンが負傷離脱中ということもあり、サイドプレイヤーの頭数が足りないというのがコバチ監督の本音でしょうが、これ以上勝ち点を取りこぼさないためにも、早急にロッベンやリベリ温存時の次善策を見出したいところです。サイドでのプレイ経験が豊富なトーマス・ミュラーを適宜サイドハーフに移す、ニャブリにサイドバックとのコンビネーションプレイを意識させることが今施せる最善の策だと思いますが、コバチ監督がいかにサイドバックとサイドハーフの役割を整備し、分厚い攻撃を実現させるのかに注目したいところです。

現有戦力の適性把握に手間取っている感が拭えないコバチ監督の采配に対し、シーズン序盤にして選手たちが苛立っている様子が窺えます。マインツ戦(リーグ戦第9節)で交代を命じられたミュラーとコバチ監督のぎこちない握手の様子からも、両者のぎくしゃくした関係が垣間見えました。現役時代を過ごしたバイエルンに監督として舞い戻り、クラブの改革に躍起になっている彼が、いかにしてアクの強いスター選手からの信任を勝ち取るのか。今月10日に行われる首位ドルトムントとの大一番(リーグ戦第11節)での出来が、彼の命運を大きく左右しそうです。

ではでは、また次回お会いしましょう!

水沼貴史(みずぬまたかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。

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