アメリカの選挙と比較する|予備選とは何か。枝野氏発言で話題に

11月6日に投開票が迫りクライマックスを迎えるアメリカ中間選挙。各州は予備選で与野党の候補を1人ずつ選び今回の本選で決選投票を行います。10月12日、立憲民主党代表の枝野幸男氏は、来年夏の参院選に向け、32ある改選1人区で、野党候補の一本化を進める意向を表明しました。その中で、「与党候補に勝てるように事実上の予備選挙を行い、各地域で野党候補を決める。徹底して協力し一本化する」と述べました。 その前には、元大阪府知事の橋下徹氏も、著書の中で野党候補による予備選実施を求めています。

この予備選とはいかなるものでしょうか。今回のこの記事では、予備選とは何かをアメリカを例に解説したいと思います。

予備選か党幹部による公認か

選挙においては党公認が極めて重要な意味を持ちます。例えば、その選挙区で1人だけ当選する1人区において、特定の政党が2人を公認することはまずありえません。その党の公認を得た候補が、その党の代表として選挙戦を戦うことによって、その候補のみならず党の支持者の支持を集めることができます。
この公認は国によってシステムが大きく2つに分かれます。日本では基本的に党幹部による公認が大きな地位を占めています。例えば、自民党では、候補を絞る過程で選挙区や支持団体の意見を聞くことはありますが、最終的には安倍晋三首相が出席する選対本部会議が決定します 。かつて、当時の首相が推進する政策に反対する現職議員に公認を与えずに新人候補を公認して「刺客」として送り込むということがありました。このように、党本部が公認を決める権限を有する場合、一部の党幹部が大きな影響力を持つことがしばしばあります。
一方で、党幹部が影響を及ぼせない公認システムが予備選です。予備選とは、党公認候補を独自の選挙の結果によって決める制度のことを意味します。予備選を行う場合、最終的な公認候補は予備選の勝者となります。そのため、党幹部の意中の候補がいても、まずは予備選で勝たせないといけなくなります。その結果、「刺客」のハードルは上がるわけです。

なぜ枝野代表は予備選を指向するのか

枝野代表は、予備選を導入することを求めるにあたって、「各党の取引と見えるようなことはしない。市民が主体となって決めてもらう」と説明しました。そもそも立憲民主党は、小池百合子東京都知事が中心となって設立した希望の党をめぐる密室政治への批判から設立されました。それ以来、枝野氏は、密室政治批判につながる要素を意図的に避けてきました。
しかし、参院選の1人区の選挙区候補をめぐっては、与党自民党・公明党に対抗するために野党の間で候補者の調整をすることは欠かせません。とはいえ、政党間による候補者の調整は、枝野氏の批判する密室政治につながりかねません。そのため、枝野氏は予備選という形で候補者選定過程をクリーンなものにすることを指向したのでしょう。この点については橋下氏も、かつての各政党幹部による候補者調整は「野合」であると見なされて支持されなかったとして、クリーンな予備選の実施を求めています。

予備選のデメリット

以上のように、野党の現状を踏まえれば予備選には大きなメリットがあります。しかし、予備選にはデメリットもあります。その例として、アメリカの例を考えてみましょう。アメリカでは連邦議会選や大統領選において予備選が導入されています。共和党員は共和党候補を、民主党員は民主党候補を選ぶわけです。その結果生じた問題として、第一に、予備選によって選ばれる候補は必ずしも本選挙で勝てる候補とは限らないということです。すなわち、野党支持者に支持される候補と有権者全体に支持される候補と異なってくるということです。この現象は自民党総裁選でも見られました。有権者全体でみれば石破茂候補と安倍晋三候補は接戦だったにもかかわらず、自民党員、議員に限られた投票の結果、安倍候補が圧勝しました。この原因として、党内の選挙に積極的な人は平均的な有権者と望む政策が異なるという問題があります。総裁選でも、安倍候補は必ずしも有権者が優先する政策ではない改憲を訴えて支持を集めました。選挙に直結した予備選の場合、平均的な有権者との距離が拡大する恐れがあるのです。
第二に、予備選で選ばれた候補と政党幹部との望ましい政策の距離が拡大する恐れがあります。アメリカでは共和党において顕著な現象です。共和党内では、福祉に対する支出削減を強く求めるティーパーティー運動が拡大しました。その結果、議会共和党リーダーである多数党院内総務を務めていた候補が、ティーパーティー運動に敗れるという波乱が起きました。こうした波乱の結果、共和党内でもティーパーティー系議員と従来型の議員との間で意見の調整ができなくなっているという事態が起きています。その結果、トランプ大統領も、主要な政策において共和党の支持を取り付けることに失敗し、断念に追い込まれました。現在最大野党党首を務める枝野氏は「保守」を自任しているように、必ずしもリベラルではない部分があります。しかし、予備選を導入すれば、よりリベラルな候補が野党連合内で躍進するでしょう。その場合、枝野氏と彼らとの間で意見の調整ができなくなる可能性は大きいと言えます。
このように、予備選には幾つかデメリットがあります。予備選の実施にあたっては、こうしたデメリットへの対処を考える必要があるでしょう。

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