増えすぎたシカ

 対馬で勤務していた1990年代半ば、島外から遊びに来た知人をよく案内した場所の一つが、ツシマジカの出没ポイントだ▲暗闇の中で目を光らせる野生の獣は珍しがられた。だが、今やそのツシマジカが増えすぎ、食害によって島固有の生態系を脅かすところまで来ているという▲場所によっては、国内では対馬のみに自生する花、ハクウンキスゲの群生が見られなくなった。絶滅危惧種のチョウ、ツシマウラボシシジミの生息に影響を与える可能性もあるとか。貴重な動植物が失われないか心配だ▲90年代当時もツシマジカによる林業被害は問題だった。捕食者がいないから増えすぎるのだという話を専門家から聞いた記憶がある。対馬の生態系の中で捕食者の役目を果たせるのは狩猟をする人間しかいない▲狩猟に関心を持つ人は最近増えている。県内の狩猟免許保有者は昨年度には3500人を突破。シカやイノシシの被害から自分の田畑を守るために狩猟免許を取得した人も多いだろう▲対馬では18世紀初め「猪鹿追詰(ちょろくおいつめ)」という事業によってイノシシをいったん全滅させたことがあるが、20世紀末には再び生息が確認された。人間が生態系をコントロールするのは難しい。多様な生き物で成り立つ生態系のバランスはどうすれば保たれるのかをよく考えたい。(泉)

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