打率.143でMVP 鷹・甲斐が盗塁を刺し続け、多くの記録が刻まれた日本S

ソフトバンク・甲斐拓也【写真:藤浦一都】

広島の機動力封じMVP、育成ドラフト出身選手では史上初

 2018年日本シリーズは、ソフトバンクが4勝1敗1分で広島を下した。MVPにはソフトバンクの捕手、甲斐拓也が選ばれた。育成ドラフト出身選手の日本シリーズMVPは史上初。

 日本シリーズMVPは、投打のいずれかで傑出した選手が選出されるケースが大部分だ。しかし、甲斐は今シリーズ14打数2安打0本塁打0打点、打率.143。打者としての貢献度は低い。捕手としての働きで選出された。

 捕手が主として守備力を評価されてMVPに選出された前例としては、1967年日本シリーズ(巨人-阪急 4勝2敗で巨人勝利)の森昌彦の例がある。森はこのシリーズ22打数5安打1本塁打4打点、打率.227ながら、投手陣を好リードしたことが評価されてMVPに選ばれた。

 しかし今回の甲斐は、森のケースとも異なっている。リード面の貢献もさることながら、広島のリーグNO1の機動力を完璧に封じたことが評価されたのだ。

 今シリーズの広島の走塁記録。()は盗塁を阻止したソフトバンク捕手

第1戦(マツダスタジアム)
9回裏 ×上本崇司(甲斐拓也)
11回裏 ×野間峻祥(高谷裕亮)

第2戦 (マツダスタジアム) 
5回裏 ×鈴木誠也(甲斐拓也)
7回裏 ×田中広輔(牽制死)

第3戦 ヤフオクドーム)
1回表 ×田中広輔(甲斐拓也)

第4戦 (ヤフオクドーム)
5回表 ×安部友裕(甲斐拓也)

第6戦 (マツダスタジアム)
1回裏 ×田中広輔(甲斐拓也)リクエストで判定覆る
2回裏 ×安部友裕(甲斐拓也) 

 重要な局面で、広島はことごとく進塁を阻止され、ソフトバンクに8つのアウトを献上した。これが広島の大きな敗因となったのは間違いないところだ。

甲斐が盗塁を刺し続けたことで多くの記録が誕生

 この結果、いくつかの日本シリーズの記録が刻まれた。

◯個人 甲斐拓也(ソ) 6連続盗塁刺 【新】
 これまでの記録は、1952年(巨人-南海)の広田順(巨)と、1958年(巨人-西鉄)の藤尾茂(巨)の4連続盗塁刺。

◯個人 甲斐拓也(ソ) シリーズ6盗塁刺 【タイ】
 これまでの記録は、1952年(巨人-南海)の広田順(巨)の通算6盗塁刺。

◯個人 田中広輔(広) シリーズ3盗塁死 【タイ】
 これまでの記録は、1953年(巨人-南海)の与那嶺要(巨)と1984年(広島-阪急)の福本豊(阪急)の3盗塁死。この2人はいずれも7試合で記録。6試合で3盗塁死は今年の田中広輔が初。

◯チーム 広島 シリーズ8盗塁死 【新】
 これまでの記録は、1954年(中日-西鉄)の西鉄と、1964年(南海-阪神)の南海、75年(阪急-広島)の阪急の7盗塁死。西鉄と南海は7試合での記録。

◯チーム 広島 シリーズ最小盗塁0 【タイ】
 シリーズ0盗塁に終わったチームはこれが8例目。今シリーズはソフトバンクも第5戦まで盗塁がなく、史上初めて両チーム0盗塁に終わるかと思われたが、第6戦の4回に敬遠で出塁した甲斐拓也が二盗。甲斐は6つの盗塁を阻止しただけでなく、シリーズの盗塁王にもなっていた。

 セイバーメトリクス的には盗塁は有効な戦術とはみなされていない。アウトになった際のダメージが大きすぎるからだ。今年の広島はまさにそれを実証した形となった。

 しかし甲斐拓也の俊敏なプレーは捕手のイメージを一新した。いろいろな意味で球史に残る日本シリーズだった。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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