がん患者3人に1人が「働く世代」 治療と仕事の両立課題

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 働く世代のがん患者が増加し、治療と仕事の両立支援が課題となっている。医療技術の進歩や治療法の多様化で、完治しないまでも日常生活に支障のない程度まで回復する事例は増えているが、体調や治療状況に応じた柔軟な勤務形態などが必要で、離職者も多いとされる。一方で病院や企業で、両立を後押しする動きもある。(末永陽子)

 兵庫県内のメーカーで働く40代男性は2012年、大腸がんの一種・上行結腸がんのステージ3と診断された。医師は「手術すれば助かる」と強調したが、妻と子ども2人の顔が浮かび、「目の前が真っ暗に」。「仕事も辞めなくては」と絶望的な気分に襲われた。

 最初の手術は大型連休を利用したが、困ったのは、数週間ごとに通院して受ける抗がん剤治療だった。集中力や記憶力が低下する副作用に苦しみ、以前は数時間で終えた仕事の資料作りに、丸1日かかるように。大型プロジェクトを任されたばかりで、病気は直属の上司にしか伝えていなかったが、すぐに立ちゆかなくなった。

 病院や会社の産業医、人事部と相談を重ね、サポート役の同僚を置くことで対応した。「働き続けるには、周囲の理解や協力が不可欠だと実感した」と話す。

 とはいえ金銭面では苦労が続く。治療費がかさむ一方、通院で欠勤が続くと給料はカットされる。妻もパートに出たが、家計の収入は約3割減った。

   

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 神戸労災病院(神戸市中央区)は昨年4月、院内に「治療と仕事の両立支援窓口」と銘打ったコーナーを設けた。医療ソーシャルワーカーの遠藤かおりさん(53)らが、入院中や通院中で仕事を持つ患者に加え、病気で仕事を辞めたが復職を目指す人の外来相談も受ける。

 対象はがん患者に限らず、糖尿病や脳卒中、メンタルヘルス、心臓疾患など幅広く対応。特に多いのが、しびれや痛み、歩行障害などがある脊椎疾患で、これまでに約90件を扱った。

 相談者で多いのは50~60代の男性。勤務形態に応じた治療法などを提案するが「必要なサポートは雇用や家族の形態、職種、病状など患者ごとに異なる。丁寧な意思疎通を心掛けている」と遠藤さん。鷲見正敏院長(67)は「高齢化で定年が延びれば、支援の需要はますます高まる」と説く。

 産業用ベルト大手のバンドー化学(神戸市中央区)はグループ全体で保健師8人を配置し、従業員の闘病サポートに力を入れる。本人に代わって上司や人事部に病状を伝えたり、病院との橋渡し役を担ったり。家族の就労を支援したこともあるという。同社担当者は「闘病する社員それぞれに寄り添った環境づくりは、どんな人も働きやすい職場につながる」とする。

【診断後3分の1超離職】

 がん患者の3人に1人は、就労可能年齢で罹患(りかん)している。国立がん研究センターの推計によると、2013年にがんと診断されたのは約86万2千人。このうち20~64歳の「働く世代」が約25万人を占めた。

 一方、厚生労働省が発表した13年の全国実態調査では、会社などに勤務する人で、がんと診断を受けた後に依願退職したのは30%、解雇されたのは4%で、合わせて離職が3分の1を超えた。自営業者や家業を手伝う家族らでは17%が「廃業した」と答えた。

 こうした状況を受け16年12月には、がん患者の雇用継続に配慮する努力義務を企業に課した改正がん対策基本法が成立した。

 また課題は、がんに限らない。今後、労働力の高齢化が見込まれる中、疾病のリスクを抱える労働者の増加が予想されている。

 兵庫県内では、17年の健康診断で異常が見つかった「有所見率」が53・18%に。全国平均54・08%を下回るが、増加傾向にある。

 兵庫労働局や兵庫県、県経営者協会、連合兵庫、県医師会などは昨秋、合同で「地域両立支援推進チーム」を設立。治療と仕事の両立を支援するため、企業や患者向けマニュアルの策定などに取り組んでいる。