「家族」役 福祉にずしり 身寄りない人の終末期

 身寄りがなく、孤立した高齢者や障害者を支援する福祉の仕組みが整う一方、そうした人たちの終末期をどうケアするのか-。「多死社会」とも言われる状況の中、福祉の現場は今、サービス利用者のみとりや葬儀、遺品整理など新たな課題に直面し、福祉が「家族」の役目を肩代わりするケースが増えている。

■見放されて
 10月中旬。佐世保市内の病院の一室。ベッドに体を横たえた男性(81)は、鼻に栄養チューブを通し、天井の一点を見詰めていた。「体調はどう」。福祉施設の男性職員(59)が声を掛けたが反応はない。この状態が2年続いている。
 男性は県外出身。元暴力団関係者で、刑務所への出入所を繰り返した。家族に見放され、認知症を患った末、約3年前、佐世保市内のグループホームで暮らし始めた。入所から1年後、肺炎をこじらせたのが原因で植物状態になった。
 入院費やおむつ代などに毎月約8万円かかる。ホームの職員が男性の口座を管理しており、そこに振り込まれる年金から必要な分を支払っている。職員が月に1回、病院に面会に行く。音信不通の家族が男性をみとる可能性は低い。
 このホームでは今年、同じように身寄りがない別の入所男性=当時(82)=が亡くなった。職員が火葬に立ち会い、遺骨は無縁仏に。生活保護費が残っていた男性の口座は「永眠口座」扱いにして、国庫への返納を待つことにした。苦肉の策だった。
 「罪を繰り返した末、福祉につながった人たちは、家族と縁が切れている場合が多い。遺品の整理や供養の仕方などこれからどうしていくべきなのか」。職員はため息をつく。

■頭を悩ませ
 罪を犯した高齢者や障害者を福祉につなぐ事業に取り組んでいる県地域生活定着支援センター(諫早市)の伊豆丸剛史所長は「身寄りがない人たちを福祉につなぐ制度がここ10年で充実する一方、医療や終末期のケアをどうするか福祉現場は頭を悩ませている」と打ち明ける。
 こうした中、長崎市城栄町の「ハートプランニング」(平山敬三代表)は昨年10月、身寄りのない高齢者のため、入院や施設入所の際に必要な身元保証や病院などへの付き添い、財産管理、葬送・納骨などの有料支援を始めた。利用者は現在23人。スタッフの松原真理子さん(47)は「利用者の家族代わりになるのが私たちの仕事。まめに面会して信頼関係を築き、最期には『お疲れさまでした』と言って見送ってあげたい」と話す。
 長崎純心大の潮谷有二教授(社会福祉)は「これまで終末期や死後の対応は家族の問題ととらえられがちだったが、身寄りがない人たちを社会的に支援する制度が必要ではないか」と指摘している。

意識不明状態の利用者の帳簿を確認するグループホーム職員=佐世保市内

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