性暴力横行のコンゴ 当事者が語る悲惨 紛争背景に日本など先進国マネー

反政府勢力の民兵に暴行を受けた過去を打ち明けるノエルさん=10月9日、コンゴ・ブカブ郊外(共同)

 性暴力を誇らしげに語る兵士らに罪の意識はなく、被害者の女性は人知れず涙を流した―。紛争下のコンゴ(旧ザイール)東部。女性たちの治療に尽力する産婦人科医デニ・ムクウェゲ氏(63)のノーベル平和賞受賞が決まり、12月10日に授賞式が開かれる。だが、レアメタル(希少金属)が豊富なこの地域で戦闘は続き、性暴力がやむ兆しはない。現地で被害の実態を取材した。 (ブカブ共同=中檜理)

「死んでしまう」

 昨年7月、東部ブカブ郊外の山中。夕闇が迫る中、主婦ノエルさん(40)は露店で売る豆を市場で仕入れ、約30人の女性と雑談をしながら家を目指していた。「止まれ。逃げたら殺す」。反政府勢力の民兵がやぶの中から大勢現れた。男2人から30分以上暴行を受けた。男たちは無言だった。

 ブカブの女性保護施設で取材に応じたノエルさんが声を振り絞った。「大量出血したということ以外は何も覚えていない」。犯人は見つかっていない。

 農村は保守的で、暴行された女性は「汚れている」と追い出されることが多い。ノエルさんも「夫や子どもには怖くて打ち明けていない」という。

 今も歩くと下半身が痛み激しい動悸や頭痛に襲われる。お金がなく病院に行けない。「私はもう死んでしまう」と涙を流した。

紛争鉱物

 「なぜレイプしたかだって? 気持ちがいいからだ。 そう思わないか?」。ブカブ郊外の農村。廃材が積まれた倉庫で反政府勢力の元民兵(48)が記者の問いに悪びれることなく笑った。「村々を通るたびに襲撃し女を探した。20人以上暴行した」と話した。

 約200人の部隊の中堅幹部。恐怖心をなくすため、政府軍との戦闘のたびに薬物を自分に注射した。

 泣いて抵抗する女性を銃やなたを持った部下が囲んだ。女性の夫や親は「(抵抗できず)見ているだけだった」という。視点が定まらない目で淡々と話した。

女性たちへのレイプについて語る元民兵=10月7日、コンゴ・ブカブ郊外(共同)

 腐敗した現政権を追放するため反政府勢力に加わったと語る元民兵。だが、政府軍との戦闘は「実際は鉱山を奪い合う争いだった」と振り返る。

 紛争の背景には、コンゴの鉱物資源をほしがる外国企業の存在がある。「欧州や中国の企業が、反政府勢力に膨大な金を払い採掘している」。貿易に携わり、ベンツを乗り回す隣国ルワンダ人の30代の男性が証言した。

 欧米や日本のメーカーを中心に近年、紛争に絡む鉱物が自社製品に使われていないことを証明し消費者に公表する動きが進む。しかし、レアメタル貿易に携わる男性は「コンゴは無法地帯だ。政府の書類偽造が横行し『クリーンな資源』として世界中に輸出されている」と語った。

日本も無関係でない

 「日本をはじめ世界中の人々に(紛争に伴う)性暴力に立ち向かう責任がある。コンゴの天然資源は日本でも使われている。日本は(地理的に)遠いが、強く結び付いている」

 ノーベル賞受賞決定の翌10月6日、ムクウェゲ氏が設立したブカブの病院。パソコンと書物が置かれただけの薄暗い執務室で、ムクウェゲ氏が共同通信との単独インタビューに応じた。日本をはじめ国際社会がコンゴ紛争に関心を持つよう訴えた。

 病院では医師や看護師が忙しく行き来し、祝賀ムードはない。ムクウェゲ氏自身、受賞決定は患者を手術中に知らされ、インタビューも治療の合間に行われた。コンゴで性暴力が絶えることはない。内容も凄惨を極め、1歳半の女児や80歳を超すお年寄りが襲われたこともあったという。

 白衣姿のムクウェゲ氏は苦悩の表情を浮かべ、静かな口調でこう力説した。「(コンゴの紛争は)経済戦争だ。利益、利益、利益―。世界中の人や企業は、そればかり考えている。利益追求が性暴力被害者の苦しみに直結していることに目を向けてほしい」

インタビューに応じる、今年のノーベル平和賞受賞が決まったデニ・ムクウェゲ氏(共同)

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