たゆまぬ意欲と構想 ペッパーフードサービス 一瀬邦夫社長 60代の東証上場、70代でナスダック

一瀬邦夫(いちのせ・くにお)■静岡市出身。高校卒業後、旧山王ホテルで料理の修業、1970年に独立し「キッチンくに」を開業。ペッパーフードサービスの店舗網は国内外で700店超。2017年2月に「いきなり! ステーキ イーストビレッジ店」を出店、現在米国10店舗。17年から東証1部指定、18年9月27日にナスダック上場

マンハッタン区で「いきなり! ステーキ」をチェーン展開するペッパーフードサービスは今秋、米ナスダック市場に上場した。日本の飲食チェーンとして初の快挙だ。「全米で1000店舗」。そう豪語する一瀬邦夫社長(76)は来年、テキサス州でも出店を計画し、攻勢を掛ける。

一瀬さんは高校を卒業後、帝国ホテルなどと肩を並べる東京・赤坂の旧山王ホテルで調理の腕を磨いた。皿洗いから仕込みに始まり、コックも経験して9年間みっちり勤めた末、1970年に独立。東京で洋食店「キッチンくに」を開いた。6坪12席の店舗が今の事業の原点だ。

その後多店舗経営を進め、1994年からステーキを中心とした飲食店「ペッパーランチ」を展開、6年後の2000年には宴席上で突然「株式を上場する」と打ち出し、周囲を驚かせた。「嘘はつきたくない」と有言実行が一瀬さんの信条で、06年に東証マザーズ上場を果たした。

構想が次々と浮かび、13年にステーキを量り売りで提供する立食の新業態「いきなり! ステーキ」を始めた。1号店は銀座の一等地。海外のペッパーランチが100店を超えるなど話題が話題を呼ぶ中、新業態は瞬く間に人気を博した。18年に200店を出す計画も達成できそうだ。

13年に日本でいきなり! ステーキ3号店を出した頃、既に米国進出を具体的に検討し始めていた。国内でさえ新業態の成否が見えていない時期だったが、ステーキを食文化とする米国で「いきなり! ステーキの可能性に賭けたかった」と振り返る。

ただ、当初想定していた物件は諸事情で白紙に。海外1号店のイーストビレッジ店も物件の選定から出店まで2年を要した。

出店後、椅子を置かないスタイルが注目されて繁盛したものの、最近は客足が伸び悩み「売り上げも、お客さま数も計画より少ないのが現状」とたんたんと語った。「見栄っ張りでもないので」とあけすけな物言いで「今一番つらい所にあるんだなと実感している」と吐露した。日本のペッパーランチで00年代以降に起きた不祥事や赤字転落など、「ピンチを体験しては乗り切ってきた」。今の難局を乗り越える自信がのぞく。

鷹揚と構える一瀬さん、ナスダック上場の記者会見では冒頭「ハワイからの帰りなんです。(日焼けして)黒いでしょう」と冗談めかした。海水浴を楽しんだというが、ニューヨークでは余暇が少なく「仕事ばっかりです」と苦笑い。腕立て伏せと腹筋が健康の秘けつで、休日は3000㏄のスポーツカーを運転して気分転換する。

ニューヨークで展開する「いきなり! ステーキ」は10店に増え、いずれもマンハッタン区にある。日本とは違った形のスタイルで、来店客の意見を取り入れつつ、市内でもさらなる出店を検討している。「スケールメリットを生かしたい」。全米展開という大目標に向け、巻き返しを誓う。

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